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神影鎧装レツオウガ 第百二十三話

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Chapter13 四神 06


 炸裂。熱量。警報。
 朧《おぼろ》の後方から迫るそれらを認識すると同時に、巌《いわお》と雷蔵《らいぞう》は動いた。
「ファントム2!」
「応! わかっとる!」
 言い終えるより早く、朧は身体を捻る。X字を描くように振られる両腕。遠心力を乗せ、丸盾が射出。方向はDGスノーホワイト、ではなく真後ろ。爆発の方向だ。
 巌によって遠隔制御される丸盾は、空中で制動しながら内部機構を展開。以前モーリシャスでの戦闘時、マリアのディスカバリーⅢと一緒に身を隠した霊力障壁が二枚、朧の巨体を完全に覆い隠す。
 直後、到達する熱量。轟音が辺り一帯を不幸な無人機ごと薙ぎ払っていくが、前述の防壁により朧へのダメージは微々たるものだ。
 加えてこの爆煙がため、朧の姿はDGスノーホワイトから見えにくくなっている筈――!
「攻めるなら今だ! ファントム2!」
「応々! わかっとるともさ!」
 制御を失って落下していく丸盾を背後に、朧は拳を振りかぶる。
「タイガァァロケットパンーチ!」
 膂力と闘志を存分に乗せ、射出される右前腕部。恐るべき撃力の塊となって襲い来る鉄拳を前に、やはりペネロペは動じない。
「そう来ると思ってたスよ」
 あの程度で凪守《なぎもり》のベテラン兵達は落ちまい。むしろ爆発を隠れ蓑に、強烈なカウンターを見舞ってくる可能性すらありうる。そう想定していたペネロペは、いち早くM・S・W・Sを展開。ライフルモードとなったその銃口で、爆煙を睨んでいたのだ。
 そうして煙を引き裂いて、朧の拳は現われた。ペネロペが予測した通りに。
 ――あの鉄拳は今までの丸盾や、先行量産型《ディスカバリーⅣ》の腕とは違う。迅月《じんげつ》という、特注品の大鎧装の一部なのだ。
 だから、あれを破壊すれば。
「勝ちに、一歩近付く」
 ペネロペは引金を引く。銃声が響く。弾丸が放たれる。
 一直線にタイガーロケットパンチを狙う一射は、狙い違わずその鉄腕を貫通――しない。
 着弾の直前、横合いから割り込んできた新たな丸盾が、弾丸の横腹を打ち据えたからだ。
「は」
 ペネロペは目撃した。ぎゃりりと火花を散らしながら、丸盾が銃弾を弾き飛ばす光景を。そしてその盾が、ロケットパンチの正面で固定されたのを。
 恐らくロケットパンチが盾のグリップを掴んだのだろう。先程落下したものとは別の盾だ。制御を切り替えたのだろう。あれもまた意識を逸らすブラフだったか。
「やるスね」
 口端を吊り上げながら、ペネロペは刹那の中で思考する。指先が追従ずる。
 ヴァルフェリアの権能が、目を覚ます。
 スラスター噴射による後退は始まっている。だが速度は向こうが上。逃げ切れまい。
 ならば迎撃と行きたいが、ライフルの再装填は到底間に合わない。やむなく、ペネロペはM・S・W・Sのライフルモードを解除。ハンドガンの展開機構が戻るのもそこそこに、引金を引く、引く、引く。
 全弾命中、されど効果無し。丸盾に全て弾かれる。
 無駄な足掻き。なるほど確かにそうだろう。実際今放った五発の内、四発はただの無駄弾だ。
 だが五発目は違う。先程弾かれた内の三発目、その尾部を掠める軌道をとっている。
 水飴のように粘ついた瞬間の中、ペネロペは見た。五発目と三発目が狙い違わず衝突し、弾かれ合うその様を。
「ビンゴ」
 そして弾かれた三発目は、目前まで迫った丸盾を握る腕の隙間、手首関節部へと――。
「おうルあアァ!!」
 ――吸い込まれる直前、まったく予期しなかった第三者の介入によって有耶無耶になってしまった。腰の入った素晴らしい跳び蹴りが、タイガーロケットパンチを撃墜したのだ。
「な」
「え」
 目が点になるペネロペと雷蔵。その視線の中間点に、スラスターを噴射しながら闖入者は着地する。
 そうして闖入者は――大鎧装モードとなった烈荒《れっこう》は、剣を振りかざして叫んだのだ。
「さぁファントム4! いい加減出て来やがれ!」

◆ ◆ ◆

 なぜ烈荒が、引いてはグレンがこんな行動に出たのか。
 その経緯は、四神を模した半自律型大鎧装――フォースアーマーユニットの出撃直後まで遡る。
 サラがセカンドフラッシュを、ペネロペが赫龍《かくりゅう》と迅月を相手取っていたあの時、グレンもまた己の相手と戦っていた。
 もとい、戦おうとしていたのだ。他の機体とは明らかに動きが違う、グラディウスを装備した機体――即ち、ファントム4が乗っているだろうグラディエーターと。
 グレンは追った。だが追い付けなかった。機動力不足ではない。むしろスラスター推力は烈荒に分がある程だ。ならば、なぜ追い付けないのか?
 単純な話だ。追いつきかける度に邪魔が入るのである。今もそうだ。
「あと、少し――!」
 あと十数歩でファントム4の機体へ間合いが届く。そうグレンが意気込んだ矢先、絶妙なタイミングで三つの機影が割り込んでくる。
 ディノファング、ディノファング、グラディエーター。盾を振りかざしながら、あるいはナイフを構えながら、スラスター全開で突っ込んでくる三体。
「クッソ、またか!」
 舌打つグレンの目の前で、ファントム4は遠ざかっていく。嘲笑うかのように。そしてそれと入れ替わりに、ディノファング・ナイトが牙を剥く。
「GYAAAAOOOOOOOッ!」
「やかましい!」
 噛み付き攻撃を跳躍回避し、そのままストンピングでディノファングの脳天を蹴り砕く。直後にグラディエーターが斬りかかってくるが、グレンは舌打つ程度でまったく動じない。躊躇なく敵機の手首を掴む。投げ飛ばす。かつて月面の演習で、辰巳《たつみ》がレックウを投げ飛ばした時のように。
 そうして投げた先には、攻撃タイミングを伺っていたもう一機のディノファングが居り。
「GYAAAAAッ!?」
「すッこんで、やがれエ!」
 激突、もんどりうつ敵二体。間髪入れず、烈荒は霊力武装のハンドガンを照準、射撃、射撃、射撃、射撃。至る所に銃創を刻み込まれた無人機達は、断末魔を上げる暇すらなく爆散。実に鮮やかな手際だが、グレンは見向きもしない。
 グレンの目当ては、あくまでファントム4なのだ。
 今度こそ、決着を付けたいのだ。
「クソッ、また見失って……」
 こうした的確な雑兵の介入は、もう何度あったろうか。カラクリは十中八九、拠点コンテナからの遠隔操作だろう。そうでもなければここまで的確な邪魔なぞ出来まい。
 どうあれ、グレンはまたしてもファントム4を見失った。また一から捜索を――。
「……ねぇな」
 ――しようとした矢先、グレンはあっさりとファントム4のグラディエーターを見つけた。
 未だ小競り合いするグラディエーター共の向こう。その同型のファントム4機は、今までと違って逃げ回らない。その場に立ち尽くし、左腕のシールド一体型ガトリングガンを上空へ向ける。
「なんだ?」
 訝しむグレンの前で、ファントム4機は上空へ発砲。その火線を目で追えば、そこには紙一重で銃撃を回避するDSライグランスの姿。更にその横手では、ブースター推力に物を言わせて遠ざかっていくセカンドフラッシュの姿もあった。
「あぁ」
 グレンは鼻白む。援護射撃をした訳だ。改めて視線を戻してみれば、何やらファントム4の機体は明後日の方向を向いている。
「あァ?」
 またもや訝しむグレン。直後、上空でインターセプター部隊がDSライグランスに襲いかかったではないか。拠点コンテナへ支援要請でも送っていたのだろう。
「イイ連携じゃねぇか、よっ」
「GYYAAッ!?」
 背後、ディノファングの眉間へ振り向きもせず銃弾を叩き込みながら、グレンはフォースアームシステムで転送させた特火点《トーチカ》を見やる。
 四つの特火点の内、天蓋部の二つは既に損壊。地上の二つも無人機への対応にかかりきりだ。今も零壱式《れいいちしき》に指揮されたグラディエーターやらディノファングやらが攻撃を続けている。これでは拠点コンテナへの直接砲撃なぞ出来まい。
「スレイプニルのアレも、まだかかるだろうしなァ」
 どうあれ、今はファントム4のグラディエーターを追わなければ――グレンは烈荒のスラスターに火をいれようとして、しかし踏み止まった。
「いや、待てよ……」
 真正面から斬りかかってくる凪守のグラディエーター・ストライカー。グレンはグラディウスを展開し、韋駄天術式を起動。加速するグレンの反応速度。相対的に減速するストライカーのコンバットナイフを見据えながら、グレンは思考する。
 ファントム4の機体は、僚機の危機を救うために介入した。烈荒からの逃走を一時中断してまで、だ。
 だったら。
「……オレが連中のお仲間に攻撃すりゃア、それのカバーにファントム4がしゃしゃり出てくるんじゃねえのか……!?」
 独りごちながら、グレンのやる気は上がっていく。それに比例し、斬撃の速度も上がっていく。幾度も円弧を描くグラディウスによって、ストライカーは短冊切られていく。
「ハ! サエてんなオレ!」
 最後の一撃でストライカーの頭部を両断しながら、グレンは改めて辺りを見回す。ディノファングを撃つ零壱式《れいいちしき》。刃をぶつけ合う赤と緑のグラディエーター。そして迫り来るロケットパンチを睨み据えるDGスノーホワイト。
「ア、レ、だッ!」
 爆散する短冊の熱を背に受けながら、グレンは叫ぶ。烈荒のスラスターが全力駆動する。
「おうルあアァ!!」
 最大加速、そして韋駄天術式による反応速度の向上。その二つに裏打ちされた烈荒の跳び蹴りが今、タイガーロケットパンチを撃墜。
「な」
「え」
 目が点になるペネロペと雷蔵。その視線の中間点に、スラスターを噴射しながらグレンは着地した。
「さぁファントム4! いい加減出て来やがれ!」
 グラディウスを剣呑に光らせながら、辺りを睥睨する烈荒。その全身から滲み出る激情に、しばし言葉を失うペネロペ、雷蔵、巌。誰もが対応をこまねく中、朧の武器管制システムは淡々と仕事をこなす。
 地面に転がった右腕を再起動させ、朧本体へ帰還。雷蔵は慌ててそれと再合体し、丸盾を上腕部へマウント。同時に別のディノファングから射出されたもう一枚を掴み取り、これもマウント。十全の状態となる朧。その性能データを立体映像モニタで確認しつつ、グレンはDGスノーホワイトへ通信を繋ぐ。
「おうペネロペ、邪魔するぜ。もののついでで助けてやったが、感謝しろよ?」
「うわーい……あんがとございまス」
「あん? なんでそんなウメボシ食ったようなツラしてんだ? ヘンなヤツだな」
「きのせいスよ」
「あっそ」
 これ見よがしにペネロペが溜息をついたが、グレンはもう気にしない。そんな状況で無い事は分かりきっているし、何よりDGスノーホワイトのハンドガンが、ぴたりと朧を追っていたからだ。
 ライフル、ショットガン、マシンガン。例えどんなベテラン兵だろうと、三態に変わるM・S・W・Sを瞬時に見切る事は難しい。
 加えて今この場にはグレンが、烈荒が加勢している。火力はともかく、その高い運動性と反応速度から来る厄介さは、既に身に染みているだろう。そんな烈荒がDGスノーホワイトの前衛を務めた今、凪守側の対応策はそう多くない。
 朧を再び分離させるか。あるいは。
「あるいは、似たようなパイロットの乗る機体をぶつけるか、だろ?」
 にたりと、グレンは笑う。そして実際、その目論見は成功する。
 ただし、その前に。
「むっ、今度は何じゃ!?」
 眉をひそめる雷蔵の前、丁度烈荒の右隣へ、新たな機体が強行着陸したのだ。
「やれ、やれ。思いも寄らないマルカールでしたね……!」
 すなわち。左肩部装甲に損傷を負った、DSライグランスが。

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【神影鎧装レツオウガ 裏話】
作劇上のグレンの立ち位置

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