【子供の成長 パート3】※2022年
〈子供の成長 パート2〉
6歳の娘は、ジャンケンが弱い。
これまで、最初は必ず「チョキ」と決まっていたからだ。しかしその後、最初が「パー」のパターンも覚え、勝負の駆け引きができるようになったと思われた。
だがしかし、それは「チョキ」か「パー」の2択からどちらかを選択するわけではなく、『最初は必ず「パー」を出す』に置き換わっただけだった。つまり、彼女の法則はあくまでシンプル、よく言えば「素直」なのだ。
だから、私が対戦する時は、こちらの思惑で勝敗を誘導することができた。
昨晩、また他愛もない駆け引きがあった。
今度の相手は、妻。
テーマは例の如く
「お風呂に入るか、パスするか」
「入りなさい」
「いやだ」
なぜお風呂がいやなのか。
「もう眠いから」だと言う。
そんな押し問答が一通りあった後、
「なら、ジャンケンで決めよう」
決まり文句のように娘が言った。
娘は、私に敗れはしたが、妻には「最初はパー」戦法が通用すると目論み、またもやニヤリと微笑んでいる。
しかし、妻はこれまでの私と娘のやりとりから、そのシンプルな法則を知っている。
負けることも知らずに娘は微笑む。不憫である。
「よし、いくよー!じゃ〜ん、け〜ん…」
「ポン!!」
娘は迷うことなく、
「パー」
それを見越した妻は、
もちろん「チョキ」
その瞬間、娘は
「なんで!?」と叫び、
床に平伏した。
その「なんで?」には、なぜこの必勝の戦法が敗れたのか、皆目見当がつかないという意味が込められていた。結果をはじめから知る妻は堂々としている。どうあろうと、娘の負けである。
「よし、じゃぁ、お風呂にいくよ」
と妻が言おうとした瞬間、かぶせ気味に娘が
「まだだよ!3回勝負でしょ!」
と叫んだ。なにが「でしょ!」なのだろうか。
それはさも、はじめから3回勝負であったような口調であったが、もちろんそんな約束はしていない。しかし、ここは温情をかけた。
いわゆる、泣きの3回勝負である。
2回戦目。
ここで妻にはじめて迷いが生じた。
「さすがに、次はパーでなくチョキだろう」と。
娘は初戦パーで負けたので、次は2択のもう一方に変えてくると読んだ。当然の読みである。
「じゃ〜ん、け〜ん…」
「ポン!!」
妻は「グー」を出した。
対した娘は……なんと「パー」だった。
妻が負けた。考えすぎた結果であった。
娘はブレないのである。
お互い1勝1敗。
3回戦目。これで勝負が決まる。
ここで妻にさらなる迷いが生じた。
「いやいや…さすがにパー3回連続はないでしょう。かと言って、チョキでもないかも…。まさか、これまで最初には出さなかった『グー』かも…」
妻もいよいよ分からなくなっていた。
そして、最後は変化をつけてくると読んだ。
「じゃ〜ん、け〜ん…」
「ポン!!」
妻は「パー」を出した。
対した娘は……「パー」だった。
だから、娘はブレないのだ。
あいことなったその瞬間、次の手として妻はとっさに同じく「パー」、ここで娘が「チョキ」を出し、娘が勝利した。
妻は深読みをしすぎた。
結果は、2勝1敗で娘の勝利に終わった。
勝利を導いた娘のパーは、もはや「神の手」と化していた。
「やった!これでお風呂パスだね!」
さっきまで、眠いと言っていたのがウソのように全身で喜びを現す娘。
そこで、妻の老練な切り返しの一手が出た。
「わかった、じゃあお風呂パスね。眠いから入らないんだよね?
なら、いつものお風呂上がりのデザートも無しね。もうこのまま歯を磨いて寝ましょう。」
「えっ!?」
娘はその言葉に驚きを隠せず、あきらかに動揺している。
我が家は、夜、デザートを食べる。
しかしそれは、「お風呂に入ること」が前提だった。娘はその日課を楽しみにしていた。
お風呂に入らない=デザートはない。
しかも、お風呂に入らない理由が「眠いから」なら、なおさらである。今すぐに寝なければいけない。
娘は確かにジャンケンには勝った。しかし、同時に失うものが大きすぎることにようやく気がついた。
それからしばらくして…
リビングには、湯船でぽっかぽかに温まり、プリンを美味しそうにほおばる娘の姿があった。
ジャンケンの結果如何を問わず、すかさず論点を変え、目的であるお風呂へと自然に導く妻の巧みなネゴシエーション。しかも、互いにwin-winで終わらせる。見事である。
妻は、ジャンケンが弱い。しかし、勝負に強い。
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