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ゼロカーボン製品とは何か?

一橋の横尾です。
このコラムでは、最近注目度の高まっている「ゼロカーボン製品」(または「カーボン・ニュートラル製品」)について紹介します。


ゼロカーボン製品とは?

ゼロカーボン製品(zero carbon product)というのは、実は和製英語的であり、海外ではあまり馴染みの無いワードです。
海外ではむしろ、カーボン・ニュートラル製品(carbon neutral product)と呼ばれる方が一般的です。
以下では、海外でcarbon neutral productと呼ばれ注目され始めているコンセプトを、日本向けに「ゼロカーボン製品」と訳して紹介します。
(いずれはこの二つのワードも厳密に使い分けるようになるかもしれません。)

ゼロカーボン製品とは、
その製品の製造から販売に至るまで、化石燃料由来の二酸化炭素排出量が「ネット(実質)ゼロ」で消費者に届けられる製品
を指します。

例えば、原材料の収穫・採掘とその仕入時の輸送にガソリンやディーゼルを使わない。
製造時にも石油・石炭・天然ガスを使わない。
製造時に必要な電力は再生可能エネルギー(または原子力)でまかなう。
そして、店頭に並べるまでの配送時にもガソリンやディーゼルを使わない。

こういった形で販売される製品を、日本では「ゼロカーボン製品」と呼んでいます。

カーボン・クレジットでオフセットしている場合もある

上の定義では「ネットゼロ」という言葉を使いました。
理想的には、ゼロカーボン製品は化石燃料を一切燃焼させずに届けられる製品となります。
しかし、どうしても化石燃料を使用してしまう場面もあるかもしれません。
その場合は、他の事業者などで二酸化炭素の回収・貯留などを行ているプロジェクトからカーボン・クレジットを購入し、相殺(オフセット)することで、ゼロカーボン製品と呼べる場合があります。
カーボン・クレジットを用いて「ネットゼロ」にした製品も、2024年時点ではカーボン・ニュートラル製品とかゼロカーボン製品と国内外で呼ばれています。
(将来的には、「ネットでゼロ」と「本当に排出ゼロ」の製品を呼び分ける時代が来るでしょう。)

ゼロカーボン製品の例

では、具体的にはどういった製品があるでしょうか?

ゼロカーボン食品・飲料品

例えば、ガソリンやディーゼルで動かす農機具を一切使わずに野菜や果物を生産するとしましょう。
また、ビニールハウスなども使わずに屋外で露地栽培をします。
そして、店頭に並べるまでの配送を自転車などで行えば、「ゼロカーボン製品」としての農産物が出来上がりです。
(というか、その昔、江戸時代頃の農産品はほとんどが「ゼロカーボン製品」として店頭に並んでいたと言えるのかもしれません。)

さらに、これらの農産品を原料として製造された加工食品や飲料品もありえます。
ここでその加工プロセスや保管時にも再エネ電気を使うなどで、化石燃料由来の二酸化炭素排出をゼロとします。
こうすると今度は「ゼロカーボン食品」や「ゼロカーボン飲料品」と言えます。

2024年時点の日本でも、ゼロカーボンを謳う「ゼロカーボン・フルーツ」や「ゼロカーボン・ビール」や「ゼロカーボン・ワイン」を購入することが出来ます。

再生可能エネルギー電気

江戸時代まで遡らなくても、八百屋さんやスーパーで販売されている地場の野菜の中には、露地で栽培し、温室を使わず、自転車で納品したものもあるかもしれません。
また、石炭の使用が始まる前の時代は商品のほとんどが「ゼロカーボン製品」だったとも言えるでしょう。
このように、目新しいワードのように「ゼロカーボン製品」を紹介していますが、実はその概念は古くからあるわけです。

これまた数年前から登場していますが、「ゼロカーボン電気」が日本でも販売されています。
それは、再生可能エネルギー100%の電気プランという形で販売されています。
これらのプランの多くは、太陽光発電や水力発電の電気を軸に提供していて、雨の日など太陽光発電ができない時間帯の電気の分はカーボン・クレジットを購入してオフセットしていると思われます。
これもまた、典型的なゼロカーボン製品といえます。

Apple社のゼロカーボン製品

化石燃料を使う前の時代や野菜はともかく、現代の工業製品ではどうでしょう。
iPhoneやMacbookでお馴染みのApple社は気候変動対策に積極的といえます。
同社は2023年9月にゼロカーボン製品としてのApple Watchを発売しました。

今後おそらく、同社の製品が徐々にゼロカーボン製品となっていくでしょう。
このように、製造・輸送プロセスの脱炭素化とカーボン・オフセットの組合せで、工業製品も「ゼロカーボン製品」となる時代が始まっています。

「もうすぐ」ゼロカーボン製品

「この調子でいけば」ゼロカーボン製品、というものも登場しています。
今はまだゼロカーボンではないけれど、「目指しています」という製品です。
例えば、ゼロカーボン・シューズを目指しているのが、
オールバーズ(Allbirds)さんです。

「目指しているだけならうちだって目指している」という企業さんもいらっしゃると思います。
ただ、オールバーズさんは一つ一つのシューズごとにその製造過程におけるカーボン・フットプリントを計測し、公表しています。
何ごともまずは「計測」し「公表」こと、カーボンのアカウンティングが一歩目です。
こうすることで、「ゼロカーボンに向かう道行き」を示せると考えています。
このような製品は「もうすぐゼロカーボン製品」と呼べるのではないでしょうか。

他にも、日本ワインの製造者さんの中にはゼロカーボン製品を目指しているワイナリーさんがいらっしゃいます。
例えば、冷蔵や製造で使う電気を再エネに切り替えたワイナリーさんや剪定枝を炭化し埋めることで大気中の二酸化炭素を回収・貯留することに挑戦しているワイナリーさんがいらっしゃいます。
こういった方々もゼロカーボン製品を目指していると言ってよいでしょう。

新巻葡萄酒さんの剪定枝炭化作業の様子@山梨県笛吹市

将来でてくるゼロカーボン製品

将来的には、ゼロカーボンな鉄鋼製品やそれを使ったゼロカーボン自動車が登場するでしょう。
また、ゼロカーボンなセメントや紙の開発・量産の取り組みも進んでいます。
今は信じられないかもしれませんが、ゼロカーボンなガスや燃料という謎の製品の開発も始まっています。

私たちの国が掲げる「2050年カーボンニュートラル」の年始まで残り25年9ヶ月。
今は目新しい概念である「ゼロカーボン製品」ですが、その未来には当たり前のデフォルトとなっていることでしょう。

おわりに

このコラムでは「ゼロカーボン製品」を紹介しました。
2024年時点ですでにひっそりと、国内外でゼロカーボン製品の開発・量産の競争が始まっています。
その産業界の取り組みを後押しする制度の整備や普及促進の政策も次々と登場しています。

ある製品が「本当にゼロカーボンか?」という点も今後は論点となるでしょう。
消費者が製品を見ただけでは製造プロセスのことは分からないので、ゼロカーボンであることの認証やその確認・検証の制度の質も問われるようになるでしょう。

これらの「ゼロカーボン製品にまつわる政策」の研究や「ゼロカーボン製品の普及促進策」の研究は、環境経済学の重要なトピックとなっていくでしょう。
引き続き注目です。

2024年3月 横尾


環境経済学でワンポイント解説:グリーン財

ゼロカーボン製品は供給の際に二酸化炭素を出さないという意味で「環境にやさしい製品」です。
二酸化炭素を出さないこと以外にも環境によい製品はありえます。例えば、大気汚染物質を出さずに作られた製品や、生態系を保全しながら作られる製品もありえます。
これらをひっくるめて「環境にやさしい製品」を環境経済学の理論では「グリーン財(green goods)」と呼びます。

グリーン財についての初期の論文としてはこちら:
Kotchen (2006). Green markets and private provision of public goods. Journal of Political Economy, 114(4), 816-834.
https://doi.org/10.1086/506337


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