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いろんな政策で環境問題に取り組む

横尾です。一橋大学経済学部で「環境経済学」の講義を担当しています。

はじめに:政策で環境問題に

環境経済学ではいろいろな環境問題を研究対象とします。
(この点、エネルギー科学・工学や生態学や気候科学といった他の環境学よりも研究対象が広いかもしれません。)

さて、環境問題にはその原因となる人類の活動があります。
その原因となる活動を特定する解明作業は・・・あいにく他の環境学に任せています。
他の環境学が「この環境問題の原因はこの人類の活動だ!」と特定してからが環境経済学の出番です。

「禁止」にすればいいじゃない

環境問題の原因が特定できているなら、その活動を禁止したらいいですよね。
例えば、水銀の使用を禁止する。
あるいは、フロンガスを使った電化製品の使用と廃棄を禁止する。

人類はこんな風にして「禁止」することでいくつかの環境問題を解決してきたと筆者は考えています。
この解決方法を少し難しく言い換えると「規制する」アプローチといえます。

なお、何かを禁止するには「法」を使ってそれを明文化するのが基本です。
そして、その禁止ルールを守らなかった人や企業には罰則がなされます。
つまり、基本的に「禁止」には「罰則」がセットです。

また、禁止して非遵守者を罰することを社会的に選択した場合、「監視」も必要になります。
監視することで初めて、非遵守者を特定できるからです。
従って、「禁止」「罰則」「監視」がセットになります。

このような「規制的手法」に基づく環境政策がぱっと思いつく「環境問題への対策その1」だと言えます。

「技術革新」に賭ければいいじゃない

次に思いつく環境問題への対策が「技術革新」です。
英語で言えば「イノベーション」です。

例えば、「金」を含む岩石から、金を抽出するために「水銀」を使う方法があります。
世界中で知られている、大昔から伝わる金の抽出法です。
また、エアコンや冷蔵庫で温度を下げるためにフロンガスという物質が使われていました。

これらが健康被害やオゾン層の破壊という環境問題をもたらすことが環境科学の研究より分かってきました。
そして、この問題を解決するために、「代替的な方法」の開発がなされました。
科学技術に基づいて、「技術革新」で解決策を生み出すのです。

こんな風にして、人類は技術革新でいくつかの環境問題を乗り越えてきました。
(時には、同時に法的な規制も実施しました。)

その上で、

  • 家庭や企業の活動をあまり変えることなく

  • 今まで通りの社会・経済だけど「気づいたら新しい技術が環境問題を解決していた」

ということが歴史的にあります。
(もちろん、「多くの人が気づかないうちに」であって、科学者・技術者・「普及者」たちの鋭意工夫と膨大な時間の投入の成果です。
なお、ここで「普及者」と呼んだ人は新技術を社会に実装するビジネスマンと言えるでしょう。)

このような科学・工学と新技術・新製品による解決アプローチが「環境問題への対策その2」だと言えます。

他にも環境政策の手段はあり得る

環境経済学の出発点は「規制」や「イノベーション」に頼る手段「以外にも」環境問題に取り組む手段があり得るという視点です。

以前のコラム「環境経済学とは?(中)5つのシゴト」で書きましたが、そういった新しい環境政策の手段を考案することが環境経済学が行っていることの中心と言えます。
図では環境経済学でこれまで開発または理論的に検討されてきた環境政策手段をカードゲーム風に図示してみました。

多様な環境政策の手段

規制は時に効果的ですが、課題が無いわけではありません。
例えば、多くの人口を一律に規制することが監視面において現実的でない場合があります。
また、完全に禁止してしまうことのデメリットもありますし、家庭や企業によっては注意深く汚染しないようにその活動を遂行できる人もいるでしょう。

イノベーションには期待しています。
ただ、イノベーションを起こし、その新技術・新製品を普及させるためにも何かしら政策的な後押しが必要となります。
また、イノベーションには不確実性が伴います。いつどのくらいのソリューションが実現されるか分からない面もあります。
その間に環境問題が悪化することもあります。

そして、忘れてならないのは…多くの環境問題の原因もまた、「昔の科学技術」であることです。
イノベーションが起き、化石燃料を産業に使う革命が起きました。
でもそれが、数十年後には「気候変動」という副作用を伴うことに人類は気づいたのです。

おわりに:政策で環境問題に

環境問題の歴史は、科学技術の発展とその副作用への気づきの歴史とも言えます。

環境問題への対策として「規制」と「イノベーション頼み」以外にも手段は無いか?
新たな環境政策の手段は何か?
これこそが環境経済学が向き合っている「問い」だと言えます。

2023年7月 横尾



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