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ジョジョ・ラビット、1917、そして、戦争ドキュメンタリー決定版『彼らは生きていた』

タイカ・ワイティティ監督の『ジョジョ・ラビット』は「子供の目線から観た戦争はきっとこうだったに違いない」というリアルで描かれた。大人から観れば、ファンタジーと言ってもいいかもしれない。

サム・メンデス監督の『1917』は、ワンシーンワンカットという脅威の視覚効果による没入感が売り。監督は「映画を観る人に、すべての瞬間、主人公たちと一緒に歩いている感覚を共有することで、感情が理解できる。私たちのそれぞれの人生は、いつだってすべてワンカットだから」とインタビューで答えている。要約するならリアリティをこだわり抜いたと言ってもいいかもしれない。

2作ともこれまでの戦争映画とは一線を画す魅力がつまっていたが、私にとっての極めけは間違いなく、この作品、『彼らは生きていた』だ。

『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズの監督、ピーター・ジャクソンによるドキュメンタリー。第1次世界大戦の、当時のモノクロサイレントのフィルムを修復、カラー化。英国にある帝国戦争博物館所蔵の2000時間余りのフィルムから厳選したらしい。当時のフィルムは撮影スピードがバラバラだったらしく、それをすべて現在の映画のスピード、1秒間に24コマに調整。そして、音声はBBC所蔵の退役軍人の膨大なインタビューから映像に合わせて選び、かぶせている。さらに、読唇術で映像にうつっている兵士たちの会話を読み解き、復元したそうな!

『1917』のワンカット撮影の労力にも驚いたが、こちらは0から作り出すわけではない時点で、もっと雲を掴むような作業の連続だったと推測する。「こんなシーンが欲しいな」と思ってもフィクションで補完はできない。考えただけで気が遠くなる。ちなみに『1917』の主人公2人は、この作品を役づくりの参考にしたらしい。『1917』とは表裏。相互補完関係にあるとも言われている。

私たちが、これまで見てきた第一次世界大戦の映像は、スピードが狂った、映像がたまにジャンプする、粒子が荒い沈黙のモノクロ映像だ。劇中、戦場に入る瞬間、画面はモノクロから、監督渾身の、いや、執念のカラー映像に切り替わる。視界が一気に「リアル」に変わる。

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戦場の兵士ひとりひとりがこちらに笑いかけてくる。語りかけてくる。私たちは、戦場には感情がある私たちと何ら変わらない人間しかいなかったという「当たり前」に気がつく。兵士は兵士として生まれてきたわけではない。皆、戦争がなければ兵士になる必要はなかった。初めて「彼らはたしかにそこで生きていた」ということを感覚レベルで知ることとなる。これまでのモノクロ映像はリアルな映像であるはずなのに、私はどこか遠い世界のフィクション、言葉を選ばず言えば絵空事を見ているような感覚になっていたのだと思う。

たくさんの人々の姿(戦地の緊迫している状況より、リラックスした彼らの様子がとりわけヴィヴィッドに胸に迫ってくる)や感情が連なり、リアルな戦争の輪郭が見えてくる。たくさんの絵をつかってコラージュされてできる一枚の絵画のように。

リアリティを追求した戦争映画の名作はこれまでにも数えきれないほどにたくさん存在するが、それはあくまでも事実に着想を得たフィクションであるという当たり前の事実に呆然とする。

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『ジョジョ・ラビット』は本当に愛すべき大好きな作品だし、『1917』には度肝を抜かれ、映画史の句読点になり得る作品だと思った。

でも、この3本の中から、いや、これまでの戦争映画の中から1本をオススメするとするなら、私はこの『彼らは生きてきた』を選ぶ。私にとっては、それくらいのインパクトがあった。

劇場鑑賞を推奨したいが、amazonプライムビデオでも観ることができる。

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