韓国映画は転調する! 『パラサイト』に並ぶ快作『スウィング・キッズ』
韓国映画のすべてをキャッチアップできているわけではないが、私がこれまでにいちばん好きなのは『サニー 永遠の仲間たち』だった。そのわりに、その『サニー』のカン・ヒョンチョル監督の最新作は迂闊にもノーマーク。「絶対に、大森さん案件です」とラインをしてくれた友人に感謝!
『スウィング・キッズ』。そのタイトルと「1951年の捕虜収容所を舞台に、ダンスへの情熱で団結したダンスチームの物語」というイントロダクションから、どうしても『スウィング・ガールズ』を思い出してしまうわけで。
つまり、「戦時中の青春ものなのかな」。それくらいの軽い気持ちで私は劇場に足を運んだ。
観終わった感想は、「コチラも『パラサイト』に匹敵する強度のある作品なのではないか」、ということ。緻密な『パラサイト』に比べたら、展開に無理な部分も多いのだが、喜怒哀楽の振れ幅は断然コチラの方が大きい。落差が大きい分、感情の揺さぶられ方もコチラの方が大きい。
『パラサイト』同様、今作も前半と後半ではまったく別の映画になってしまったかのように転調する。リズミカルでユーモアたっぷりの前半戦は、「この作品はどういう風に観ればいいのだろうか」とコチラ側が観るスタンスを決めあぐねているままストーリーはグイグイと進んでいく。ギアチェンジされる後半戦は前のめりになってスクリーンに釘付けにさせられてしまう。「これは、紛れもない戦争映画である」という事実を突きつけられながら。韓国映画は本当に「転調」が上手い。
『パラサイト』の根底に流れるテーマは格差社会だが、『スウィング・キッズ』は反戦、イデオロギーがテーマだ。主演がK-POPアイドルEXOのD.O.(ダンス、演技はもちろんなのだが、何より面構えが良い。こういう面構えの俳優が日本でも主演をはれればいいのに!)ということで、日本ではそういうカテゴリーで語られてしまっているようだが、それはあまりにももったいない快作であると思う。
それにしても、『パラサイト』に続き、『スウィング・キッズ』を観てしまった今、「日本映画は韓国映画に大きく水をあけられてしまったな」と痛感せざるをえない。「高予算」を使うセンスはやはり一朝一夕ではどうにもならないような気がするのだ。ちなみに、今作は振り付け創作に1年、約5ヶ月の練習、音楽の選曲に3年、200人の人員を投入し3ヶ月かけて大規模オープンセットは制作されたらしい。
『サニー』でも音楽の使い方が絶品だったが、こちらでも音楽の力が大きく作用している。レオス・カラックス監督『汚れた血』やノア・バームバック監督『フランシス・ハ』のあのシーンでかかるあの曲が、この映画でも同じように使われる。これだけでも私はこの映画を観る価値があると思ってしまうくらいだ(この曲がハイライトシーンでかかる映画にはずれナシと思うのは私だけ?)。そして、韓国映画で初めて使われたというビートルズの楽曲(映画のメッセージに深く共感したビートルズサイドが原曲の使用を認めたらしい)がかかる瞬間、その楽曲のメッセージと映画のメッセージが見事にシンクロする。
予告動画に偽りはないが、絶対に裏切られると断言。あまり前情報をいれず、劇場に飛びこんで欲しい(それにしても上映館が少なすぎる)!
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