「ありのままの身体」を愛するということ
自分の身体が自分のものでなくなったような気がありますか? …48.8%。
痩せたいと思ったことがありますか?…89.0%
先日、買った『エトセトラ No3』。その中にあった、1334人が答えたエトセトラ・リポート2020の中の数字だ。これ以外にも40問くらいのQ&Aが掲載しており、読み物も大充実しているが、このエトセトラ・リポートを読むだけでもとても意味深い。
コンプレックスと外部環境
私は、174cmある。いわゆる縦に大きいタイプ。中学1年生で10cmくらいいきなり伸びて、学年でいちばん大きい女子となった。フォークダンスの時間に、男女の人数が合わなくなると男子側にさせられたり、身長が私より小さい男子と躍る時に「でけー。手が届かねー」と言われたりした。私はバスケットボールに本気で取り組んでいて、高身長にはすこぶるメリットを感じていたので、大きく傷つくことはなかった。でも、「これ、絶対、私じゃなかったら傷ついているやつ」と心の中では思っていたのを覚えている。「お前が小さいんじゃ!」と言い返すのは、その男子が傷つくのが分かりきっていたし、その後の議論が不毛になるだろうから、と飲み込んでいた。本当は言い返した方がよかったのだろうか? 今でも思い返すことがある。
共学だった中学校から女子校に入り、背が高かったことで謎の人気を博した。そして、大学に入学した時、“プリティコンサバティブ”という、やたらとフリルやリボンがついたテイストが雑誌で提案され、校内でメインストリームに。「これ、絶対、私には似合わない」と私は察知したが(その感度は高校時代が私服校だったことが大きかったような気がしている)、疑いなくそのテイストの着ていた女子は多かったように思う。とりあえず、自分がまったく似合わないものだけが周りにあふれて圧倒された。
社会人になってファッション誌の編集部に配属となり、着映えする高身長であったために「身長が高くていいね」と言ってもらう機会が増えた。「覚えてもらいやすくて得だね」とも言われたが、これは、受け手によっては傷つく言葉のような気がしている。
何が言いたかったかと言うと、私の身体は変わらぬままに、環境によって自分の身体はかくも翻弄されていくのだ、という事実。思春期の身体に対する自尊感情は本当に脆いものだと思うし、それは大人になってもあまり変わらないものだということだとも。太っているとか痩せているとか、大きいとか小さいとか。個体差があって当たり前のものを「当たり前」と思えずに、こっそり、そしてずっと苦しんでいる。声に出していないだけで、実は、皆が同士。
ヴィクトリアズ・シークレットの業績不振
2019年からショーを廃止したヴィクトリアズ・シークレット(ヴィクシー)。『GLAMOROUS』という女性誌をつくっていた15年〜10年前には、ブランドの広告塔を伝えるエンジェルたちの記事をよくつくっていた。「トップモデルの証」であると言われていたエンジェルたち。完璧なボディだとされ、世の女性たちの憧れであった彼女たちの身体は良くも悪くも画一的だった。
数年前から、ヴィクトリアズ・シークレットは、顧客離れ、業績低迷にあえいでいる。
ビクトリアズ・シークレットが苦しんでいる —— 売り上げは低迷し、「#Me Too」運動が広まる中、そうした空気を読まないかのようなセクシー過ぎる広告は批判の的になっている。
サヴェージ×フェンティの登場
業績不振にはいろいろな要因はあるのだろうが、その決定打は間違いなく、リアーナが手がけるサヴェージ×フェンティ(以下、サヴェージ)の登場であると言われている。
ヴィクシー・エンジェルに異を唱えた女性たちによる、 #BeautyBeyondSize 、#ImNoAngel、#WeAreAllAngels というハッシュタグ。当時のムーブメントを覚えている。
サヴェージのファーストコレクションのルックを見れば一目瞭然“多様性の礼賛”がよく分かる。
そして、肩を並べるように、今は多様性を牽引するブランドが人気を博している。
サヴェージの2019-20年秋冬コレクションのショーはメイキングも含めamazonプライムで観ることができる。オープニングはダンサーたちに囲まれたリアーナがパフォーマンス。
それに続き、ビッグ・ショーン、エイサップ・ファーグ、マイゴス、ホールジー、DJキャレド、ファボラス……今をときめくアーティストがライブを披露。
ファッションショーの枠を飛び越え、音楽フェスやカーニバルのよう。とにもかくにも、その中で躍る女性たちの身体の多様性だけでなく、パワフルさが印象的なステージだった。NETFILIXのビヨンセ『Homecoming』同様、元気がない時には何度も見返してしまいそうだ。
サヴェージのショーでは、一見、繊細に見えるランジェリーたちも大胆な動きにズレることない。女性の身体を素敵に彩りながらも、同時に、力強く解き放たれて行く躍動感に寄り添う。
Made to celebrate every body.
すべての身体を祝うためにサヴェージ×フェンティは作られている
リアーナが発信するメッセージは、世界中のひとりひとりをあますことなく励ます。
ちなみに、リアーナは2012年にヴィクトリアズ・シークレットのショーに出演している。たくさんのヴィクシー・エンジェルに囲まれることで、数年後に描きたい未来をステージ上から見据えていたのかもしれない。当時ももちろん大スターだったが、身体からみなぎる自信、それを後押しするパワーが現在とは圧倒的に違う。
日本のこれから
日本ではこれからという印象があるが(これは女性誌に携わる自分が大いに反省しなくてはいけないところだ)、海外ではボディ・ポジティブについての議論が活発にされている。
たとえば、サヴェージは、32A-42H、XS-3Xの幅広いサイズ展開を用意している(アマゾンで購入可能)。
日本のブランドは、まだまだサイズ展開のバリエーションが少ない。試着室で「私の身体は普通じゃない」と烙印を押されたようで軽く落ち込むこともある(私の場合は、ほぼ丈が足りないという理由で)。
「自分の身体をありのままに愛そう」。そうひとり思っていても、ひとり気持ちを強くもっての孤軍奮闘は難しい。社会を構成する全員がそう思わなければ、何気ない言葉やメディアやメーカーからの発信で心の傷を追う理由は後を絶たない。
そういう意識を普段から強くもちたい、と考えている。
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今日の一本『ミス・レプリゼンテーション』
【追記】
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