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日本占領下の昭南島(現シンガポール)で多くの中華系住民の命を救った日本人の又姪さんから聞いたお話

例えばあなたが博物館に行って
ある時代の歴史の展示に心が奪われたとします。

もし、その時代を生きていた人と対話ができるとしたら?
あなたは何を聞いてみたいですか?

しかもその人が自分の血縁だとしたら?



本日は、このnoteを読んでくださったある読者さんからのメッセージと、その方の体験談をご紹介します。


ある読者さんからのメッセージと体験談

わたしにnoteを通じてご連絡をくださったアヤ子さん(仮名)

大阪で生まれ育った60代の女性。ルーツは福岡県です。

マレーシアにご主人と移住後、歴史研究がご趣味のご主人と共にMuzium Negara (マレーシア国立博物館)を訪れます。

そこで、太平洋戦争中の旧日本軍の「銀輪部隊」の展示に出会います。

英領マラヤを自転車で進軍する旧日本軍の兵士たち
(銀輪部隊)Wikipediaより

銀輪部隊とは、旧日本軍が1941年12月8日未明マレー侵攻作戦でマレー半島北東部のコタバルに上陸後、英軍の拠点のあるシンガポールに南下するため、自転車を使って進軍した部隊の名称です。

「あ、、、そういえば。親戚に戦時中にシンガポールにいた人がいると聞いたことがあるわ。」

その後、アヤ子さんは早速、大阪在住の80代のお母さんに連絡を取ります。

その時にお母さんから聞かされたことは・・・
アヤ子さんの大伯父(祖母の兄)がシンガポールで活躍していた人であること
戦後、本人が自叙伝を出版していること
その本を題材に、ある映画の登場人物のモデルになったこと

その話は幼い頃に聞いた記憶があり、その大伯父の自叙伝は家のどこかにあったのは記憶しているけれど、これまで一度も読もうと思ったことはなかったそうです。

その後、マレーシア国立博物館ガイドとしてボランティア活動を始めたご主人と共にシンガポールのThe National Museum of Singapore (シンガポール国立博物館)に足を運びます。

日本人ガイドさんに展示を案内してもらい、ガイドツアー終了後にガイドさんにご挨拶へ伺い、アヤ子さんがお母さんから聞いた話や大伯父さんの名を伝えると、ガイドさんはびっくり仰天。

実はシンガポールでは広く知られた人物だった大伯父さん

アヤ子さんの大伯父さんの名は、篠崎護(しのざきまもる)さん。

シンガポール国立博物館にある篠崎護さんの特設展示

戦前からシンガポール(英領マラヤ)に在住し、戦前は日本の報道記者・スパイ、日本軍占領下昭南島(現シンガポール)の行政幹部、戦後は日本の実業家、著作家として紹介されています


シンガポール国立博物館で特設展示されている篠崎護さんの功績は・・・

旧日本軍がシンガポール(降伏後に昭南島SYONANと改名)を占領後、長引く日中戦争で敵対関係にあった中華系住民を「抗日分子」と呼び迫害を始めた際、篠崎護さんには戦前からこの地に多くの友人知人がいたため、乞われるままこの許可証に日本軍軍政部本部の幹部として署名。この許可証を保持していた人の多くが、憲兵隊の厳しい検問を免れました。

中華系住民というだけで、この許可証を持たない多くの罪もない住民が命を落としたのです。

戦後に大伯父さんが執筆した本

篠崎護さんご本人は戦後紆余曲折を経て日本へ帰国。戦後30年近く経て回顧録を1970年代に出版しました。

その本のタイトルは
シンガポール占領秘録 - 戦争とその人間像-

わたしは、ご連絡いただいた後にアヤ子さんとお会いした際に託され、一気に読了しました。

この本には、当時の戦前戦中戦後のマレー半島の事情や歴史的背景が護さんの視点から詳しく描かれています。

時代の波に翻弄され、世界情勢や軍部に著しい影響を受けた難しい人間関係の中で疲弊しながらもその度に葛藤を抱えつつ自分にできることを精一杯やりきった一人の男性の、国境や人種を超えた人間愛を感じる内容です。

この本に出会えたことは、マレー半島で長年暮らしてきた私の人生やこの土地への見方を根本的に変えたと言っても過言ではないくらい素晴らしい本です。マレー半島に関わる日本人すべてにオススメの本です。

ただ、残念なことに現在は絶版となっています(日本国内ではAmazonで中古本を購入できるようです。)

ただ、英訳の
SYONAN MY STORY :  the Japanese Occupation of Singapore
は今もマレーシア含む諸外国では販売されており、わたしはマレーシアで最近オープンしたTSUTAYA BOOKS BUKIT JALIL(ASEAN初の蔦屋書店)で購入しました。

篠崎護さんが登場人物のモデルとなった日豪合作映画の邦題は「南十字星」です。
これも日本ではもう見られないそうですが、The Highest Honour という英題でこちらから無料で全編観ることができますのでご覧になりたい方はぜひ。(筆者はまだ観れておりません)日本以外の当時敵対していた連合国軍側からの視点から描かれた映画や本から学ぶことは多いと感じます。

まとめ〜わたしたちに託された未来

海外でのみ語り継がれる「人道的な功績を遺した日本人」篠崎護さん
一人でも多くの方にお伝えしたいと思い、今日の記事を書きました。

2020年8月8日にアヤ子さんからご連絡をいただいて以来、コロナのロックダウンを経て今も交流を続けています。

何も知らぬまま、まるで導かれたかのようにマレーシアに移住し、そこで大伯父さんの功績に触れるという驚くべき機会を経験されたアヤ子さんは

「護おじさんがわたしに伝えたいこと託したいことがあると思っているんです。わたしが出来ることをマレーシアで後悔のないようにやりましょうと言われている気がします。」
と語っておられました。

わたし自身の経験も、アヤ子さんの境遇に近いものがあります。マラヤの歴史をほとんど何も知らずに2010年に移住し、自分のルーツを紐解いていく過程で知った多くの衝撃的事実をこのnoteに綴ってきましたが、意味があってこの地にいるという想いが年々強くなっています。


昨年2021年に7回実施したオンラインスタディーツアーの中で、篠崎護さんについては再三ご紹介させていただきましたが、noteでお伝えできていなかったため、改めてご案内しました。

7月から再開する予定のYouTubeチャンネルBEFORE TOO LATE、遅れておりますが準備中です。

皆さまからのご感想がモチベーションになります。
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Matahari@マレーシア🇲🇾

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