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完璧なアイスコーヒーの飲み方

夏の暑さから逃れたいと、クーラーが入ったカフェに入り、アイスコーヒをいただく。冬は全然思わないのに、夏に飲むアイスコーヒーは何であんなにおいしいんだろう。



机に運ばれたときは、キリッとした表情のアイスコーヒーさん。しばらくすると、グラスいっぱい水滴をつけて、アイスの角が溶けていく。ストローを入れた瞬間、カロンと氷同士がぶつかる音。汗だくの私は、暑い夏に飲むアイスコーヒーは世界で一番美しい飲み物だと、ひとりでうんうんとクビを振る。


まだアイスの角が尖っているころ、コーヒーの味は苦い。そう、アイスコーヒーはホットコーヒーと比べると、氷で薄まることを予定し、濃いめのコーヒーが注がれている。苦くて少しぬるい。完全なアイスコーヒーになる前の段階。さなぎのようなもの。

そこから時計の針が進むごとにアイスコーヒーになっていく。私はこの刻一刻と姿と味を変えていく存在に、世の諸行無常を重ねる(うそです。そんな難しいことは考えていません)。

だいたい5分だろうか...。氷が溶けて、飲み頃のアイスコーヒーになるのは。喉が乾いてカフェに入ったのに、私は最初の苦目のひとくちを飲んでから、しばらくアイスコーヒーに口をつけず、我慢する。できれば水も飲みたくない。最高の完全なアイスコーヒー飲みたいから。

スマホを眺めて時間をつぶす。グラスにそっと目をやると、いい感じにグラスが濡れてきた。いいぞ、あと少しだ...。もう少し、一番上の氷の角がもう少し、まあるくなるまで。


5分ほどたち、グラスは水滴だらけになり、透明を失う。いかつく尖っていた氷もまるくなった。ドキドキしながらストローを手に取る。そう、この瞬間がいつでも一番緊張する。ストローでグラスの中の氷と水とコーヒーと、それから夏の空気を混ぜ合わせる。

カロン、氷がぶつかる音。

ストローでかき混ぜていいのは、たった1回だけ。それ以上ぐるぐると混ぜ合わせてはいけない。溶け合わせるのだけれど、それぞれの個性は消してはいけない。

ストローを唇にあてる。ふうっと一息つくと、勢いよく氷と水とコーヒーと、それから夏の空気が混ざったものを吸い込んでいく。口の中に、マイルドな苦味を持った液体が流れていく。

腹の中まで、京阪電車・京都線の通勤特急くらいの速さで到着する。胃がひんやりとしたのが、分かる。全身でこの涼を堪能する。

そしていつも、我慢できずに一気に飲み干してしまう。あとには寂しそうに薄茶色のベールをまとった氷だけを残して。



暑くて蒸し蒸しした夏に飲む、アイスコーヒーは何であんなにおいいしんだろう。あ、そうそう。猫が気持ちよさそうに寝ているカフェの、アイスコーヒーが一番おいしいと思うのです。

今年も夏が来たね。嬉しいです。

たくさんアイスコーヒーを飲みたいです。


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