自販機のお釣り150円を失い、自分のアイデンティが混乱した話
最近とっても「うわあああ」と感じた小さな事件をお話しても良いですか?
先日インドネシアのバリ島の隣にある、ロンボク島の空港を利用したんですね。チェックインもセキュリティチェックも全て終わって、さぁ搭乗ゲートへ向かうぞなタイミングで、目の前に自販機が現れたのです。一緒にいた3歳の娘は絶賛自販機ブーム真っ只中。お金をするすると飲み込み、ピカピカ光って、さらにはボタンを押すとドスッとジュースが落ちてくるという、ギミック盛りだくさんのなんともう幼児キラーな存在。彼女は自販機を見つけるやいなや「ジュース買いたい」ひとり大合唱をはじめました。まぁ、しっかり早起きして、空港までついてきてくれたので、たまには彼女の欲求をまるっと受け入れようと思い、自販機でジュースを買いました。
2万ルピア紙幣を入れて、5千ルピアのジュースを買いました。お釣りは1.5万ルピア、なのですが。なのですが、この自販機はなんとお釣りが出ない仕様だったのです。ジュースを手にした後、あれお釣りは? となり私たちの近くにいたスタッフさんに「お釣り欲しいです」と話しかけました。しかしそのスタッフさんは「ほらここ読んで、お釣りでないって書いてあるでしょ」と。
おおおおぬぬぬ。そうです、インドネシア語でお釣り出ませんから注意してや! としっかり書いてあるのだそうです。あいさつレベルのインドネシア語しか分からない私は、えええええ! と着火してしまいました。
英語が分かるセキュリティスタッフに、ここは国際空港で外国人も利用するんだから、ちゃんと英語で注意書きしてもらわないと、と半泣き半キレの情けない表情で詰め寄りました。セキュリティスタッフさんは「分かるけど、どうしようもできない、あきらめるんだ。私はこの自販機を設置した責任者じゃないから」と言います。
いやそうですよ。あなた、100%正しい。これはあなたのせいではないから、私がこうやってあなたに懇願するのはおかしい。でも、日本で生まれ育った私からすると、自販機からお金が出てこないのが許せなかったんです。こんなこと今まで経験したことがなかったから。白状すると、お釣りの額はたったの約150円…。ルピアは額面大きいので1.5万ルピアと聞くと。高額な雰囲気しますが、実際には150円のお話なのです。そしてさらに白状すると、どうにかこの1.5万ルピア返却してもらえないか10分ほど粘ってしまいました。
金額の問題じゃなかったんです。自分の中で、機械は必ず正常に作動するし、自販機のお釣りは必ず正確に返ってくるし、スタッフさんは困っている客を助けるものだという、これまでの私の価値観の上で懇願し続けました。自分がこれまで信じてきた世界観、神話、信念みたいなものが崩れてしまうのが恐ろしかったから。
本当、うざい客すぎる。このスタッフさんに落ち度は1ミリもないのに。もう二度と会えないかもしれないから、ここで丁寧に謝りたいです。本当にごめんなさい。機械はもちろん壊れるし、お釣りが返ってこないことだってありえる、そしてあなたに責任は全くなかったです。ごめんなさい。
海外暮らしを始めてもう10年になりました。しかしいまだにこうやって日本の価値観にぐぃーんと引っ張られて、苦しくなってしまうことがあります。ここは日本ではないのだからと頭では理解していても、ふとした瞬間に素の自分が出てきて、日本と比べてここダメあれダメとジャッジしてしまうのです。
ときどき日本で生まれ育ったことを恨めしく思うことも。なぜなら多くの人が遅刻もせず誠実に真面目に働き、様々なサービスの質が高いから。その環境に一度染まってしまうと、海外での生活で出会う「ちゃらんぽらん」が許せなくなってしまう。しかしだよ、そのゆるさに助けられている面も多々あるわけで…。むしろその日本特有のきっちり感がとても苦手で、わたしゃ日本を出る決意をしたのではないか。
たった150円のお釣り返却問題から、自分の人生を振り返ったり、国家間の価値観について思いを馳せたり、思考がぐるぐる回転しました。その結果、自販機のお釣りは返ってこないこともあると思え。そしてピッタリの金額がないなら諦めようと、心に決めました。不完全を許容しよう。本当に私、切なく情けなかったけれど、良い学びでした。
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