バイクの修理屋さんは、男女の仲まで修復しちゃうのだ
バイクが壊れると、男と女の関係も壊れちゃうんだ。
トランさんは私に笑いながらそう言った。
私が今住んでいるベトナムでは、公共の交通インフラが整っていないので、人々の足はバイクだ。どこにでも駐車できるし、車が渋滞したって脇をスルスルと抜けていける。
みないい年になるとバイクを買う。一番人気はHONDAのバイクだ。
街を見回してみると、すごい数のバイクがそれぞれの目的地に向けて、疾走している。大量のバイクから発せられた排気ガスを防ぐために、みんなマスクをして。
ベトナム生活には欠かせないバイク。
先日ハノイからベトナム中部の都市ダナンへ引っ越しした。ここでは大都市のようなバイクの群れがなく、車の渋滞もない。私がハノイで毎日お世話になっていたバイクタクシーの数も少ない。ということで私はバイクを借りることにした。
HONDAの古いバイクを、アパートの大家さんに借りた。10年以上は走っているらしい。HONDAはやっぱりすごいなぁ、と本田宗一郎さんに心のなかで感謝を唱えた。
ある日、私はバイクのライトをつけたままで放置してしまい、バッテリーを上げてしまった。エンジンがつかないと慌てる私。そこで顔見知りの日本語がペラペラの男性トランさんに助けを求めた。
う〜ん。僕もエンジニアじゃないから、わかんない。とりあえず修理屋に持っていこう。そう言って私の古くて重いバイクを引っ張り歩きだした。
修理屋までは500メートルくらいだったけど、重いバイクを引っ張って歩くので、それなりに時間がかかる。カンカンて照りつける太陽の下、汗をかきながらトランさんは言った。
この状態ね。バイクが動かなくなるとね。もうベトナムの女の子は帰っちゃうのよ。だってバイクは僕たちの足でしょ? 走れない男に興味はないって。それにバイクが壊れた男と一緒にいるのは、女性にとってとっても恥ずかしいことだから。
デートの中で、バイクが持つ意味ってのは日本のそれとは比べ物にならないほど大きいらしい。とにかく私は今はデート中じゃなくてよかった…と胸をなでおろした。
あ〜だからバイク修理についてちょっと勉強したんだけどね〜。あれは難しいわ。とトランさんは言った。
なるほど、だから街中にバイクの修理屋さんがあるのね。と、私は納得した。女性とデートに行くのなら、少しの不具合も許されない。ベトナム男性はきっと頻繁にバイクの小さな修理をするんだろう。
修理屋のおじさんは、あっという間に私のバイクを治してみせた。長い年月、たくさんのバイクを修理してきたんだろう。油で黒くなった手を差し出してきた。私は彼の握手を受け入れながら、このおじさんのおかげできっと、壊れなかった恋もたくさんあるのだろうなと思った。
この一連の出来事で、私が学んだこと。人間関係もこまめな修復があってこそ、長続きするんだってこと。HONDAのバイクみたいに。
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