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棒アイドル(毎週ショートショートnote)

吾輩は木の枝である。
昨夜未明の大風で、梢からポッキリ折れて芝生の上に落ちたばかりの木の枝だ。
そんな吾輩を一番最初に拾ったのは、
「わふぅ」
「あらら、遊んで欲しいのね」
近所に住むシバ殿で、
「ちょっとだけよ。そらっ!」
「わん!」
それから何度、吾輩は空を飛んだのだろう。「やだっ、もうこんな時間!」
シバ殿の飼い主の悲鳴で、吾輩は棒飛行士の任務を終えた。

次に吾輩を手にしたのは、引っ越ししてきたばかりの若い母子で。
「ほうら、ネコさんよ」
「あっ、あっ(わたしも、わたしも)!」
吾輩を交互に手にし、地面に描く描く描く……
「そろそろお家に帰って、ご飯にしましょ」
母と子は家に帰り、吾輩は棒画家の任務を終えた。

正午を過ぎ、吾輩を手にしたのは、幼稚園に通う女の子。
「1、2、3~。1、2、3~ あーん、むずかしい!」
吾輩を手にし1、2、3~で、頭上に半円を何度も描く。
「あかり、ダンスレッスンに行くわよ~」
「はーい」
吾輩は棒踊り子の任務を終え、あかりとよばれた女の子と入れ違いに、吾輩を手にしたのは小学生男子で、
「ていっ!」
「うわぁ、やられた!」
「こら、道草しない!」
一瞬で吾輩は、棒剣士の任務を終えた。

吾輩は任務を遂行し続ける。
魔法使いに、野球選手に、歌手に、漫才師に、ゴルファーに……

吾輩は木の枝である。
明日も吾輩は、棒アイドルとして任務が遂行されるのを望む。


お題はこちらの「棒アイドル」から。

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