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毒吐く南瓜(毎週ショートショートnote)

「柏木君、すまないが一時間程残業してくれないか?」
「あなた、ごめんなさい。熱が出て夕ご飯作れないの。帰りに薬と……」
「お客さん悪いね。ちょうど特製チャーシューが切れてしまったんだよ」
「××駅で急病人の搬送のため……」
「高崎、カドワから逆転ツーラン。ああ、ここでピッチャー……」

イライラが募る。モヤモヤが募る。その全部をありのままに吐き出してしまえば、どんなに楽か。
「あ、お客さん。クジを一枚どうぞ」
薬とスポーツ飲料を買い求め、そうして得たのが、プラスチック製のカボチャの容器。中を見ると毒々しい色合いの飴玉が五つ。
喉に違和を覚えたのもあって、薬局を出て一つ、コンビニを出た後に一つ。
家に帰ると、電気は豆電球の灯りのみ。
買ってたぞと渡した薬を飲み、先に寝ると告げる妻の後ろ姿にイライラが増す。
洗濯機の中は満タン、風呂はシャワーで済まし、脱いだ服はそのままに、コンビニ弁当1分半レンチン、テレビをつけ発泡酒片手に野球中継を見ながら食す。
贔屓のチームはさらに点差が開き、頂上決戦を逃してしまいそうだ。
ギリギリ。つまみ代わりに放り込んだばかりの飴を噛み砕く。
ああ、今日も面白いことなんて何一つない。最後の飴を口の中に入れ、空っぽのカボチャの容器を叩きつけるように投げる。
寝室から妻のクシャミ。
またクシャミ。
またまたクシャミ。
ムカムカっ。たまりにたまった怒りを身体中にたぎら、妻がいる寝室へと向かい……

朝、目覚まし時計の音と共に、妻がふらふらしながら起きてくる。
そんな妻にたまりにたまった怒りをぶつけ、ありとあらゆる罵声を浴びせる。と、
「イタズラにしては度が過ぎるぞ!」
背筋がピンと伸びるようなしわがれ声と共に、床に転がるカボチャの容器が大きく大きく膨れ上がり……
散々ついた悪態と、辞めてと何度も懇願された行為が、次から次へと俺に向かって吐き出される。


お題はこちらの企画の裏お題「毒吐く南瓜」から。

2023.1.21加筆修正

『本作品はamazon kindleで出版される410字の毎週ショートショート~一周年記念~ へ掲載される事についてたらはかにさんと合意済です』

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