山猫の依頼(毎週ショートショートnote)

「やぁれ、これは山猫の依頼だね」
農村部からの依頼は、手間がかかるものが多い。たとえば、遺産相続の為に亡くなられた方の家系図を紐解くと、その方の両親のどちらかに死亡の印がないまま、埋葬されているということがある。
逆算して歳が百を超えていると、さすがに生きていないだろうと、その修正が行えるのだが、厄介なのは亡くなられた方の第三親族にあたる方の中に、戦前の移住政策で亡くなられた両親に土地を預けたまま便りが途絶え、土地の所有者が明治生まれの方のまま、更新されていない。
このような土地の遺産相続は、所有者の血縁者を洗う作業からしないといけないという、手間も時間もかかる仕事。
とりあえず、依頼された土地に建つ建物の、朽ちた郵便受けを開けたとたん、ざらざらと溢れるどんぐりの滝。
やけに手間も時間もかかる仕事を、わたしは宮沢賢治の『どんぐりと山猫』から、山猫の依頼とよんでいたけれど、まさかそのお話の最後を思い出させるような光景に出会うなんて……
さて、この依頼を手間も時間も金もかからないようにするには、どう進めるべきか。
ざらざらざらざら。
色褪せたどんぐりの滝は、まだ止まらない。


こちらのお題「木の実このまま税理士」から。