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読書感想文#03 第五の山

前回が東洋宗教の要素が強かったのに対し、今回は西洋宗教(旧約聖書)に纏わる物語です。

1. 題名

今回はブラジルの巨匠パウロ・コエーリョの作品です。アルケミスト-夢を旅した少年、星の巡礼、と続き彼の著書を読むのはこれが3作目です。作品は勿論、彼自身の経歴が旅に溢れていて興味深いなと思います。

2. 内容

舞台は混迷を極める紀元前9世紀のフェニキア(現在のレバノンの領域)です。元来フェニキアはイスラエルとの同盟関係を糧に貿易を拡大させ、戦争が絶えない時世の中、3世紀近く平和な国を維持してきました。しかし地中海沿岸諸国を占領するべく、アッシリアの将軍達は最初に侵略する国としてフェニキアを標的にしていました____________。

本書の主人公はギレアデ(フェニキアと隣接するイスラエルの町)で指職人として働くエリヤという男。旧約聖書に登場する預言者エリヤが題材になっています。彼は預言者として生を受け、幼い頃から天使達の声を聞き、※主の教えを知ることができました。

当時アッシリア国王はシリアの王女イゼベルを妻に迎えますが、彼女はイスラエルに対しシリアのバアル崇拝を導入します。この時エリアは主の言葉を聞き、国王に対し"バアル神を崇拝している間はイスラエルに雨は降らないだろう"と警告しました。

間もなく、"預言者エリヤはアッシリアの発展と拡大にとって脅威である"とされ、アッシリア軍から命を狙われるのでした。

彼は隣国フェニキアのバアルの神々が住むという第五の山の麓の町ザレパテ(アクバル)に亡命し、一人のやもめ女に救われます。

彼は亡命後も主の教えに聞き従いますが、最後はそれに背いて行動してしまうのでした。

3. 感想

まずこの本の感想は"難しかった"です。

聞きなれない国々や二つの宗教の対立について。また主や天使といった聖書に基く単語について。知識が無い為、預言者って何、主ってどの神様のことなんだろうといった根本的な疑問が多かったです。しかし、当時の地図を見て、聖書の一部を知って、少しずつ物語を理解できたのは大変面白かったです。

次に印象的だったシーンについて

1.あなたは、すべての物事がいかに単純であるか、分かったのです。(中略) 勇気を持つだけで十分なのです。

これは、エリヤがイスラエルから亡命しケリテ川の側でカラスと会話するシーンです。実際にはカラスの話す言葉はエリヤの妄想で、一人二役でエリヤが自身と対話し、自分はどこへ行くべきか、何をすべきか、熟考します。そして彼は自身の預言者としての役割を認め、主の教えに倣ってザレパテへと歩みを進めるのでした。

2. あとで後悔したり、若さを失ったときに嘆いたりしないように、全ての瞬間を有効に使いなさい。人生のあらゆる時期に、主は自信喪失という贈り物を人に与えるのだ。

亡命先のザレパテにて。迫りくる戦争やこの町で起きる理不尽に対し、彼は自分の能力をどう使えば良いか分からなくなっていました。エリヤは自分にできる事は無いと、故郷のイスラエルに帰りたいというのでした。

3. (中略)この瞬間から、私の魂はこの地上で私が知っていたすべての物と一つになります。私は谷であり、それを囲む山であり、この町であり、通りを歩いている人々です。

こちらはエリヤが愛したやもめ女の遺言の抜粋です。エリアはこれまでの理不尽に激高し、預言者としての役目を放棄し、自身の人生を生きると決心します。同時に、やもめ女の息子は戦争で荒廃した町が母であるなら、自分が再建させるんだと誓うのでした。

その他、この本には数々の印象的な言葉やシーンがありました。しかし、その全てに違和感があり理解に時間がかかるのは、やはり馴染みのない宗教が題材になっているからだと思いました。神の教えを信仰する西洋的な考えに対し、自身のルーツは自然を畏敬する神道の様なものなのだなと再確認することができました。

補足

※1ここでの"主"はアッシリア軍の侵略以前からイスラエルで信仰されてきたヤハウェ信仰のことだと考えられます。ヤハウェとはヘブライ語の固有名詞YHWHやYahを指します(神を固有名詞で呼ぶ事を畏れ多いと感じたユダヤや英語圏では称号としての'AdonayやLOAD等の呼び方も)。間違えてたらすみません!汗

4. まとめ

時に人生は神の教えに逆らい、各々が自らの行動を選択し、決定することこそが神の真の意思であるというメッセージが受け取れました。

本書を読了後、現在コロナウイルスの影響で変化しつつある日常をどう解釈するか、考えるとやはり以下に帰還しました。

"全ての瞬間を有効に使いなさい"

私はエリアのような預言者では無い為、この先の社会がどう進んでゆくのか不明です。しかし、在宅勤務が定着しつつ、空いた時間で普段はしなかった家事等を始めたり、勉強を始める方が非常に多いです。

暇つぶしであれ何であれ、手を動かすのも頭を働かせるのも、時間を有効に使っている点に関してはそれぞれの未来は明るいんじゃないかと思いました。裏を返すと、これから何をしたいのか、自分の人生について思考を止めないことが重要だと考えさせられました。

そして、下記は別本からの引用。

"おまえが何かをしたいと望む時、宇宙全体が協力して、それを実現させるために助けてくれるのだよ"

結局、"やりたい事があるんならやろうか!"と前向きに思わせてくれる、彼の著書は今回もそんな作品でした。


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