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映画感想『マネー・ショート 華麗なる大逆転』 〜会議室で発生し、会議室で終わる…〜

 映画『マネー・ショート 華麗なる大逆転』(2015年、130分)を観たので感想を書く。

 クリスチャン・ベイル、スティーヴ・カレル、ライアン・ゴズリングらが演じる金融関係者が、2008年に起こる金融危機いわゆるリーマン・ショックを予期し、関連商品の空売り(ショート)によって大儲けを画策する。

この映画の風体

 彼らはファンドマネージャー(資本金を集めて運用する責任者)だったり、もしくは大手銀行員の野心溢れる中堅社員だったりと、つまり個人投資家ではない。トッププロが、法の網が細かくない部分を狙って、スタンドプレーで利益を出し、投資家への責任を果たしたり、社内での地位向上を狙っているわけだ。
 もっとも、個人投資家からウォール街に乗り込もうとする2人の若者が主人公に据えられている…という体裁ではあるが、しかし上記3人の芝居なりキャラクター性なりが強烈なので、かなり食われてしまっているのがアンバランスに見えた。

映画としての停滞感は不満

 結論として。
 実話に基づく『マネー・ショート』、「映画としてどうか」という観点だと、そこまで乗れなかったかなと思う。

 実際、扱うキャラクターが130分にしては多すぎる(メインだけで6人もいるし、それぞれがほぼ他人)うえ、まなじ脚色しないので、因果関係のあるアクションやイベントの発生が薄く、テーマ的な掘り下げがかなり食い足りない。
 「世界の破滅に賭けている」ということに対して、スティーヴ・カレル演じるファンド・マネージャーが、自身のユダヤ教徒的な出自と、兄の死による精神的ショックを背景に、苦悩を深めていく、という図式には構造があった。しかし、そこに他のキャラクターが色んな視点から批評するといった、常套手段的なテーマの深化が行われず、そこがやはり不満だった。

停滞の理由

 こうなってしまった理由もわかる。
 この映画、ともかく金融危機の兆候に最初に気付いた人間が、空売り可能な商品を見つけて買い込む、という序盤のあたりで、殆どのアクションが終わってしまうからだ。
 あとは、周りからのプレッシャーに耐えながら、どこまでチキンレースを続けるかという問題が後半を占めていくわけだが、根本的な問題として、映画において「動かないこと」が正解であるという局面に入った場合、これを面白くするのはなかなか難しいだろう。いろいろな工夫はされているが、多数の登場人物をセットアップしながらも、根本的な停滞を抱え込んでしまったがゆえに、全体的な間延び感が出てしまっているように感じた。

脚本技術的な飛び道具

 なおこの映画、難しい用語は入浴中のマーゴット・ロビーが教えてくれる仕組みになっているのが面白い。

 脚本の技術書にも、退屈にならざるをえない説明であっても、絵的に面白いものの裏でやると、観客もなんとか付き合ってくれるというテクニックが書かれているんだけども、ここまであからさまなものは初めて見た。教科書に載る事例になりそうだ。

 とはいえ、そもそも「なぜ空売りが儲かるのか」という基本的な説明はしてくれないし、登場する金融商品も相当に高度(個人投資家には全く縁がないもの)なので、証券取引に興味がある人でないと、リアルタイムで追いつくのはちょっときついかもしれない。
※自分はスマホで調べながら観たよ。

アクションで推移するシーケンスは面白かったが…

 面白かったシーケンスは、サブプライムローンの実態を、熱海みたいなゴーストタウンに確認しに行く場面や、ラスベガスで足を使って自分の目算に対する確信を得る場面などだ。会話やアクションで場面が動き、情報が開示され、予想外なことが起こり、登場人物が一喜一憂する。
 こういう進め方で料理することも、できたのではないだろうか。本作、いろいろなことがオフィスの一角だけで進行してしまうのが、やはり窮屈な印象が出てしまう。

 ただ、金融を真正面から扱った映画は多くはないと思うので、好奇心はかなり満たしてくれた映画だ。

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