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コンフレリーへの期待

フランス到着後、パリでの大学登録の前にボルドーの私立の観光専門学校で2年程勉強した。そこでは 1年目は歴史、経済、労働法、地理、美術史、国語(要するにフランス語)、外国語、第二外国語、観光等を学び、2年目は加えて研修を1年のうちに1ヶ月(場所は自分で選択だったので私はモンペリエとランゴンとパリを選んだ)を3回、2週間研修を2回(パリの博物館とメドックの某シャトー)とイヴェントに数回参加するというものであった。当時日本人の研修生は引く手あまただったので受け入れ先を探すのに苦労しなかった。

卒業試験の際にオプションもあったので点稼ぎの為に英語、第二外国語、そしてエクスポゼの3科目を選んだ。第二外国語は勿論日本語、エクスポゼは3つテーマを各自選んで、その中から当日試験管が一つ指定する内容のものを自分なりに説明しながら展開させていくものであった。3つのテーマは何でもよかったが、私はガイド志望であったので観光に関係するものが良いと言う事であったので<バイヨンヌのチョコレート>、<コンフレリー>…、そして3つ目はど忘れしてしまったが恐らくたいした内容ではなく、人に興味を持たれないような響きのタイトルであったに違いない。私なりの作戦である。そうすれば<バイヨンヌのチョコレート>と<コンフレリー>の2つだけ練習すれば良いから。それにしても私もそろそろ健忘症か…トホホ。

2つのうちでより一生懸命やったのは<バイヨンヌのチョコレート>、そして試験管のお二人か選んだのは<コンフレリー>であった。予定通りにはいかなかったけれど何とかやり終えて、試験管の反応も悪くなく、結構良い成績で2年間の優秀の美を飾ったのであった。

考えてみれば、何故試験管がチョコレートよりもコンフレリーに興味を持ったかは明らかであった。学校のクラスの中で唯一ヨーロッパ外から来たものがフランス特有のものをどう説明出来るかはフランス人であるお二人にとって私がフランス国家資格を取得するのに相応しいかどうかの決め手になるであろうから。

コンフレリーという一つの言葉は国や地域によって解釈の意味合いが全く違ってくる。コンフレリーとは基本的に<連帯組織>の事をさすが、普通は社会団体だったり慈善団体の事であったりするか、今回はフランスのガストロノミー分野で活躍するコンフレリーについて例を挙げて話していきたい。

一言で言ってしまえば、ガストロノミーのコンフレリーとは郷土を愛し、その地で生産された名産物の促進に努める重大な役割をもつ。フランスのガストロノミーのコンフレリーで一番世界的に知名度が高いのは<ブルゴーニュ利き酒騎士団>、Le Confrérie des chevaliers du tastevin(ル・コンフレリー・デ・シュヴァリエ・ドュ・タートヴァン)である事は疑う余地も無い。こちらは規模がフランス国内だけではなくインターナショナルなので日本でも良く知られている。その理由からこちらを頭に浮かべながら見ていくとわかりやすいと思う。

このコンフレリーは1934年発足。毎年11月にブルゴーニュ・フランシュコンテ地方で行われるオスピス・ド・ボーヌのワインオークションをご存知であろうか。栄光の3日間などとも言われるが、毎年11月の第3日曜日を中心に、土・日・月の3日間、ボーヌ(Beaune)という人口およそ20000人程の町でワインフェスティバルが開催される。

アスパラガス祭りともヤツメウナギ祭りとも異なるので、内容について簡単に付け加えると、この栄光の3日間の最大の目的であるオークションは日曜日にオスピス・ド・ボーヌ内で行われるが、外からも大スクリーンでその様子を観ることができる。町のレストランは予約なしでは入れないくらい、満員である。ボーヌにはおそらく数十軒のワインショップがあると思うが、皆ティスティングセットをそれぞれオススメワインを組み合わせてその場で立ちのみ出来るようにしている。テーブルは大抵ワインの樽(もちろん空っぽであるが)を縦にして使うのがまたそれっぽい。

また、中心の広場を主に屋台がズラッとならび、バーベキューやチーズなど、特に葡萄の枝を燃やして焼いたソーセージが最高であるが、私は最後にお土産として惣菜屋でハムとパセリのコンソメゼリー寄せ、チーズ屋でエポワスとデリス・ド・ポマール(クリームチーズに粒マスタードをまぶしてある)、そしていつもの場所でグジェールを必ず買う(グジェールに関しては私の記事、<私のプロフィットロール>をよければご参照いただきたい。特にシュー生地の一品がお好きな方)。これらもこの地方のスペシャリティなのでパリで買うのとまた違う意味を持つと思う。

この3日間は地元にとって特別である事はさらに年に一度の就任式の際に世界中のコンフレリーが集まって来ることから明らかになる。何せこのコンフレリー・デ・シュヴァリエ・ドュ・タートヴァンの本拠地はあのブルゴーニュのコート・ドールの葡萄畑の中にそびえ立ち、歴史を持つシャトー・ド・クロ・ヴージョなのである。このクロ・ヴージョで就任式や宴も行われる。ちなみに普段ここは有料で自由見学も可なのでブルゴーニュに行く機会のある人にはおすすめである。

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さらに、このコンフレリーの役割りが他と違うのは年に2回程タートヴィナージュといって、ワインのブラインドティスティングを行なってその結果優秀なワイン認定をする事。そうした事によってワインの品質向上を守るというところからしてもここでのコンフレリーの役割りは重要である。

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何せブルゴーニュワインを世界中に広めるという使命を持つので、誰もがコンフレリー・デ・シュヴァリエ・ドュ・タートヴァンになれるわけではなく、条件として現会員2名からの推薦が必要である。アルコールをたくさん飲めるかどうかは関係ない(ソムリエにだって下戸はいる)。日本にも支部があって日本人のメンバーもいる。<タートヴァン>というのは上の写真のような、要するにティスティンググラスの役割をする容器で、ワイン樽の並んでいる暗いカーヴでロウソクなどの灯りを使ってワインの色を見てからティスティングできる様になっている。底が凹んでいるのはワインの色がよく見える為にである。今ではティスティングにはワイングラスを使用しているが、騎士団はタートヴァンをメダルとして首からかけているのである。見た目かなりカッコ良いと思う。

フランスに全部でいったいいくつのコンフレリーがあるのかわからないが、ワインのコンフレリー(忘れてはならないサンテミリオンのジュラードもそうであるし…)、チーズ、アスパラガス、ランプロワ(ヤツメウナギ)、にんじん、カスレ、リエット…、と深く考えなくともすぐに頭にこれだけ浮かんでくる。皆それぞれ工夫された独自のコスチュームを持っている。帽子、メダル、旗もある。これ見るだけでワクワクするのはコンフレリー自身が地元の名産品をいかに愛しているかだけでなく、自分の役目への誇りと、フランスの他の土地の、或いは世界中の人々に好きになってもらいたいという熱意が伝わってくる事の表れの様に思える。

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コスチュームに関して、ヌーヴェル・アキテーヌ地方のブライのアスパラガスのコンフレリーの衣装は綺麗で落ち着いた感じの薄紫である。これには理由がある。ブライのアスパラガスは2種類あって、1つは全身真っ白、そしてもう1つの種類は先っちょがほんのり薄っすらと紫色をしている。これはどうも栽培される時の日当たりと関係しているらしい。それで薄紫色の衣装なのである。その色を衣装に取り入れるのも一つのアイディアである。

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同じくヌーヴェル・アキテーヌ地方のサント・テールと言う町のランプロワ(ヤツメウナギ)のコンフレリーは黒を中心としたスッキリコーディネイトであって、衣装を見ただけでは何のコンフレリーなのかピンと来ないが、ランプロワにとって大事なのはドルドーニュ川であって、また、この町、サントテールがランプロワの本拠地なのだという事を主張しなくてはいけない。この場合、町と川のある環境と名物が見事に一致して促進活動が行われるのだ。町興しと言っても過言ではないであろう。ランプロワのコンフレリーは主にレストラン関係者と釣りに関わる職業に携わる者で構成されている。アスパラガスとランプロワについては私の前回の記事<ヤツメウナギ祭り>をよろしければご覧いただきたい。とくにランプロワの写真を敢えて今回はここに載せなかった理由がおわかりいただけるかと…。

このように、フランスにおけるガストロノミーのコンフレリーはそれぞれ目的も違えば規模も異なる。我々にとっての関わり方、また楽しみ方も様々である。ブルゴーニュ利き酒騎士団の様な世界的に大成功をおさめた例もあるか、皆が皆同じ様なやり方は出来ない。ガストロノミーはフランスの無形文化遺産と言われながらも近年様々な困難に出会い、場合によっては規模収縮、あるいは絶滅の危機にさらされているものもあるかもしれない。それを乗り越える為にコンフレリーの役割りを今一度それぞれ見直す必要も場合によってはあるのではないか。

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