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褒めるの魔法がかかる3つの条件

2024年3月23日に、佐藤友美さん主催「さとゆみゼミ」を卒業。卒業後も、文章力・表現力をメキメキと上げ続けるため、仲間と共に、note投稿1,000日チャレンジをスタート。

Challenge #31

4月に入ってすぐ、月に一度のALT ミーティングがあった。ALT(エイ・エル・ティー)とは「外国語指導助手」のこと。英語を母国語とする先生が7名、市内の小中学校に勤務している。

私のメインの仕事は、彼らの仕事の管理・サポートをすること。月に一度のミーティングには、顔を合わせることで些細なこともヒアリングしたり話し合ったりできる、といった意味合いもある。

新年度で仕事が立て込み、少し遅れて会議室に入った。扉を開けると、7人ともこちらに背を向けておしゃべりしていた。春休みの思い出でもシェアしているのだろう。

"Hi, sorry I'm late." 「遅れてごめん!」私が声をかけると、彼らは一斉に振り向いた。同時に、"Ohhhhh!" "Wow!!" "Amazing"などと、大騒ぎが始まった。

カナダ人のC先生が近寄ってきて、私の肩をガシっと掴み、"Look at your hair! you look amazing!"「髪型、めっちゃいいじゃん!」と、キラキラした瞳で興奮している。他のALTも集まってきて、称賛の声が続く。

髪を切ったのは数週間前のことで、すっかり忘れていた。しかも、数センチ切って、前髪を作っただけなんだけど……。彼らの大歓声に、かえって恥ずかしくなる。


10年以上前、東京で働いていたときのことを思い出した。インターナショナル幼稚園のスクールマネージャーとして勤務していて、同僚は外国人の先生たちだった。仕事仲間というだけでなく、ふざけ合ったり悩みを相談したりと良い友人でもあった。

彼らと働き始めてしばらくして、私自身の変化に気がついた瞬間があった。自己肯定感が爆上がりしているのだ。甘えるのも褒められるのも苦手な長女気質だったのに、気づいたら「私ってすばらしいでしょ」マインドになっていた。

というのも……彼らはとにかく褒めるのだ。

髪を切れば、"Amazing" や "Fantastic" みたいな英語で、1日に何度も褒められる。それだけじゃない。クラスのレッスンを止めて、子どもたちにこんな風に語りかける。「見て、愛が髪を切ってるよ。みんなどう思う?ステキだよね。じゃあみんなで『ステキ』って伝えよう。せーの!」

もう恥ずかしいったらない。でもこれが慣れるのだ、不思議と。

英検準1級の1次試験に合格したとき、2次のスピーチに自信がなかった。「きっと落ちるに違いない」とネガティブになる私に、同僚のJ先生は、 "It won't be happen. "「なわけないじゃん」と呆れ顔だった。合格したと伝えたときは、"I told you so."「だから言ったじゃん」と、驚かないぜ的なポーズをとる。

「君はすばらしくて、価値のある人なんだよ」と、言葉や態度で伝えられていると、いつのまにか私も、「私はすばらしくて価値がある」と信じるようになっていた。


数年前、夫の故郷である佐賀県に移住した。半年だけ、中学校の非常勤講師として働くことになった。このとき私は、生徒をたくさん褒めようと心に決めていた。褒めるの魔法を、生徒たちにもかけたかったからだ。

勤務して1週間ほど経ったとき、朝の会で教室に入ると、一番後ろの席のYさんの髪型が変わっていた。肩につかないくらいのボブからショートヘアに。

私はすかさず、「Yさん、髪切ったねーー。すごく似合う!」と褒めた。ところが「は?別に」との冷たい反応。ヒラリと返り討ちにされたのだった。


そのあと、正規教諭として多くの生徒と関わってきた。今ならあのときの間違いがわかる。

褒めればいいなんて、そんなに単純なことではなかった。3つの条件が揃ってやっと、「褒める」の魔法がかかる。あなたをよく知っていて、あなたからの信頼を勝ち得ていて、あなたを心から大切だと思っている。

褒めるの魔法がかかれば、心の扉が開く。扉さえ開けば、褒め言葉だって助言だって、するすると相手に届く。Yさんからしたら、会ったばかりの良くわからない先生に褒められたって、気持ち悪いだけだったに違いない。


さっき、次男が部活を終えて家に帰って来た。彼がすぐに、お菓子が入っている箱を取り出したとき「夕食前なんだから我慢しなよ」と注意したのだが、私の声は届いていないようだ。

そういえば、こっそり食べたプリンのカップ、テーブルの上に置きっぱなしだった。次男の心の扉がクローズドな理由は、明白なのである。


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