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#22. あなたとわたしの『吾輩の辞書』

2024年3月23日に、佐藤友美さん主催「さとゆみゼミ」を卒業。卒業後も、文章力・表現力をメキメキと上げ続けるため、仲間と共に、note投稿1,000日チャレンジをスタート。

#Challenge 22

三浦しおんさんの『舟を編む』を読んでいる。

主人公の馬締光也(まじめみつや)が、出版社の営業部から辞書編集部に引き抜かれる。そこで新しい辞書『大渡海』の完成に向け、奮闘する話だ。

読んでいる……のだが、進まない。

物語に出てくる言葉の意味が気になって、一つひとつ『広辞苑』で調べているからだ。たとえば、「膨大」と「莫大」の違い。「文楽の大夫が義太夫を語る」なんて、たった12文字に知らない言葉が3つも。もはや外国語。

真剣な辞書作りに、不器用な恋も絡む物語。もどかしい展開に好奇心をくすぐられつつ、新しい言葉と出会い、知り、考える。この本は読み急がず、じっくり楽しもう。

昨日も、辞書を脇に置いて、辞書をつくる本を読んでいた。すると、90ページ目で、ある一節に出会う。

どれだけ言葉を集めても、解釈し、定義づけをしても、辞書に本当の意味での完成はない。一冊の辞書にまとめることができたと思った瞬間に、再び言葉は捕獲できない蠢き(うごめき)となって、すりぬけ、形を変えて行ってしまう。辞書づくりに携わったものたちの労力と情熱を軽やかに笑い飛ばし、もう一度ちゃんとつかまえてごらんと挑発するかのように。

『舟を編む』p.90

そういえば……。

Xで「わたしは挫折はしたことがあるが、失敗はしたことがないと思う」と、ポストしたときのことを思い出した。

投稿した直後、ゼミ仲間からの質問リプがあった。すぐにその質問に回答するのだが、どうも噛み合わない。事例を出して説明しても、「それは挫折ではないですね」的なリプが返ってくる。なかなか「挫折」と認めてくれない……。うーーーーん。

辞書での「挫折」の定義はどうか。『広辞苑』には例文も含め、3行ほどの説明が載っているだけ。

ざ-せつ【挫折】
(計画や事業などが)途中でくじけ折れること。だめになること。

『広辞苑』p.1,178

それだけ?「なわけない」、と思う。

そのとき、わたしの中にある『吾輩の辞書』の存在に気づいた。そこには、こう書いてある。

ざ-せつ【挫折】
・捻と骨のイメージ。身体的な怪我と類似している。
・一生懸命に取り組んだことに対して使う。
(慎重に歩いていても怪我をしないが、全力で走ったら怪我をする。)
・挫折(怪我)は治る。挫折(怪我)があるから、心身ともに頑丈になる。

あいの辞書

わたしにとって、「挫折」という言葉に「ネガティブさ」はない。きっと、ゼミ仲間にも『吾輩の辞書』があって、そこには違う内容が書いてあるんだろう。

言葉の意味を調べるなら、辞書で調べるのが最適だ。

しかし、たった数行で、言葉が持つ「すべて」を説明できるわけがない。『舟を編む』の馬締が言うように、辞書は完成されていない。だとしたら、意味を補う「その他」の部分は、一人ひとりの頭の中にあって、それぞれ違うんじゃないか。

しかも、わたしたちの『吾輩の辞書』は、液体みたいに流動的なんだと思う。新しい経験や人に出会うたび、新しい意味が加わったり古い意味が修正されたり。今回の例でいうと、わたしの『吾輩の辞書』に、「挫折:ネガティブな印象を持つ人もいる」の1行が加わった。

相手の考えを理解できないとき、「あなたとわたしの『吾輩の辞書』には、きっと違うことが書いてある」と思えばいいのかも。でも本当に理解し合いたいなら、なんて書いてあるのか探ってみてもいい。

あ、このゼミ仲間とは、すごく仲良しです。こんな話もできる仲間がいるって、最高で幸せ。

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