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企業秩序ってなに

 企業秩序を乱すと、懲戒処分の対象になりえます。

 では、企業秩序というのはいったいなんなんでしょうか。
 企業秩序という名の下に、従業員の人権を過度に制限していませんか。

服務規律

 多くの会社の就業規則には、「服務規律」というものが定められていると思います(厚労省(東京労働局)のサンプルはこちら)。

 その内容は、①法令・規則を遵守義務、②心構え、③労務提供の仕方や職場のあり方、④会社の施設や物品の管理・保全、⑤従業員の地位・身分に基づく規律、に大きく分けることができます。

 ③労務提供の仕方や職場のあり方としては、例えば以下のような項目を定めます。

 ・ 入退場の場所の指定やその手続、私品の持ち込み規制
 ・ 遅刻、早退、欠勤、休暇の手続
 ・ 離席、外出、面会の規制
 ・ 服装(制服、制帽の着用、見苦しい服装の規制等)
 ・ 職務専念義務
 ・ 上司の指示・命令に服従する義務
 ・ 職場秩序保持
 ・ 職務上の金品授受の禁止
 ・ 安全・衛生の維持(喫煙場所の指定、安全衛生規定の遵守等)
 ・ 風紀維持(暴力行為、酒に酔っての出勤、賭博の禁止等)
 ・ 整理整頓

 ④会社の施設や物品の管理・保全としては、例えば以下のような項目を定めます。

 ・ 会社財産の保全(会社の財産を大切に扱うこと、私的使用のために無断で持ち出すことの禁止、火気取り締まり等)
 ・ 会社施設の利用の制限(終業後に職場に残らないこと、会社施設を私的な会合に使用しないこと等)

 ⑤従業員の地位・身分に基づく規律としては、例えば以下のような項目を定めます。

 ・ 会社の信用保持(会社の名誉や信用を毀損しないこと)
 ・ 兼職・兼業の規制
 ・ 公職立候補・就任時の取扱い
 ・ 秘密保持義務
 ・ 身上異動の届出

大きな概念としての企業秩序

 「企業秩序」は、服務規律を含むより大きな概念であると捉えられています。

 最高裁は、企業秩序は「企業の存立と事業の円滑な運営の維持のために必要不可欠なもの」であるため、企業は、企業秩序を定立し維持する権限を持つ、としています。

 他方で、労働者側は、労働契約を締結した時点で、会社のもつ企業秩序を定立し維持する権限に服する義務を負います。

企業秩序の限界

 ただし、会社は、従業員に対して万能な支配権を持つわけではありません。

 企業秩序は、企業の秩序を維持するためのものですから、企業の秩序に関係のないことについては、支配権は及びません。

 つまり、従業員の私生活上の行為は、それが会社の事業活動に直接関係するものや、会社の信用や名誉を毀損するようなものでない限りは、規制することはできません。

 また、会社の業務に直接関係するものであっても、企業秩序維持の必要性がそれほど高いわけでもないにも関わらず、従業員の人格や自由を過度に支配し拘束するものは許されません。

髪型等の制限は許されるか

 ハイヤー運転手の勤務要領中の「ヒゲをそり、頭髪はきれいに櫛をかける」という定めは、無精ヒゲや異様、奇異なヒゲのみを差し、口ひげはそれに該当しないとした判例があります。

 また、トラック運転手が茶髪を改める旨の命令に従わなかっことを理由になされた諭旨解雇処分は、企業の円滑な運営上必要かつ合理的な限度を越えるとして無効であるとされた判例もあります。

 性同一性障害者による別性容姿での就労に対する懲戒解雇を無効とした判例もあります。

 つまり、企業の秩序保持権は、従業員の人格や自由の保護の観点から制約を受けるということです。

インターネットの閲覧履歴やメール送受信履歴の調査は許されるか

 会社のパソコンを使用して従業員が私的なインターネット利用をしている時、会社はその監視や調査をすることができるでしょうか。

 もし、事前に何も規定していなければ、会社は、事業経営上の合理的な必要性があり、その手段と方法が相当である場合に限って、監視や調査をすることができます。

 ですから、会社としては、事前に使用規程で監視や調査をする旨を規定し、従業員に周知しておくと良いでしょう。そうすれば、従業員は、プライバシーがないことを前提として会社のパソコンを使用することになるからです。

企業秩序をどうやって維持するか

 「企業秩序」は、「構成員に対する統制」であると説明されます。

 確かに、他人を何人も雇用して1つの組織を作るには、統制は欠かせません。

 しかし、その統制をどのようにして図るかについては、経営者の性格がダイレクトに表れます。
 軍隊のように厳しい規律の下、少しのはみ出しも許さない、という統制にするのか、「北風と太陽」の太陽のような統制にするのか。

 他人を完璧にコントロールすることはできないことを前提に、いかにすれば活気とやる気に満ちあふれた職場になるのか、考えてみてくださいね。

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