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切なくて前向きな二つのGOOD-BYE

横浜銀蝿・銀蝿一家に限った話ではないが、好きな曲のパターンのひとつに「切なく前向き」というものがオレにはある。例えば別れの歌でとても悲しくて切ないのだが、悲しんでいるだけでなくポジティブな要素を含んだ歌のことを個人的に「切なく前向き」な曲と呼んでいる。これは歌詞の内容だけの話ではなく、サウンドにも「切なく前向き」な雰囲気を含んでいる曲が存在する。音だけで前向きな雰囲気を出している曲もあるのだ。文字で説明するのは難しいのだが、この「切なく前向き」な曲はだいたいオレの琴線に触れる。

紅麗威甦にもこの「切なく前向き」な別れ歌が存在する。これは勝手にオレがそう思っているだけだが【紅麗威甦の3大GOOD-BYEソング】と名付けている。その3曲は「GOOD-BYE LONELY!」「夢・あたためて」そして「GOOD-BYE Rock'n Roller」である。

今日はこの3大GOOD-BYEソングから、「GOOD-BYE LONELY!」「GOOD-BYE Rock'n Roller」の2曲について書きたい。「夢・あたためて」については先日コラムを書いたのでそちらを読んでいただけると嬉しい。


3枚目のアルバム「ヨ・ロ・シ・ク参」に収録された「GOOD-BYE LONELY!」は本当によくできた曲だ。この曲こそがオレの言う「切なく前向き」な曲の典型である。

旅立つ恋人との最後の夜、男は明らかに動揺している。しかし明日の別れの時には笑って送り出したいと思っている。そう、男は強がりであり格好つけたがりな生き物なのだ。


  GOOD-BYE LAST-NIGHT LONELY!
  最後のセリフ いきに残してほしいぜ
  GOOD-BYE LAST-NIGHT LONELY!
  たそがれ時は 
  やけに絵になるシーンさ…

  うつむくお前 何も言わずに
  そっとなぞる 指輪のあと 
  「…らしくもないぜ…」しらけたふりで
  たばこをふかす 俺サ…

  every day! 2人だけの 
  この街の暮しすて
  every night! 新しい 
  夢をはじめるお前
  サ・ヨ・ナ・ラ… いかすLONELY GIRL
  冷たい唇が しみるぜ…

  every way! あすの朝は
  ウインク出来るはずさ  
  every time! 新しい 
  くつをはいたお前に  
  サ・ヨ・ナ・ラ… いかすLONELY GIRL  
  最後の夜だから 泣くなよ…

  にじんだお前… 思い出の恋
  ちょっとセンチな 俺サ…

  GOOD-BYE LAST-NIGHT LONELY!
  最後のセリフ いきに残してほしいぜ
  GOOD-BYE LAST-NIGHT LONELY!
  たそがれ時は 
  やけに絵になるシーンさ…


TAKUの書いたこの歌詞。情景が目に浮かびやすくとてもよくできていると思う。別れを目前にし、新しい夢に向かい旅立つ恋人を笑顔で送り出したい男の気持ち。本当は別れたくなくてセンチメンタルな気持ちでいっぱいだけど格好つけたい男の気持ち。「最後の夜だから 泣くなよ」と恋人に言いながら、恋人の姿がにじんで見える。そう男の目にも涙が溢れているのだった。とても切ない。

切ない歌詞を前向きな方向に持っていっているのはTAKUの作ったメロディーだ。この曲を聴くと、やっぱりTAKUって天才なんじゃないか?と改めて思う。とにかくメロディーが抜群にいい。

短いイントロからいきなり始まるサビの部分からして最高だ。「たそがれ時は やけに絵になるシーンさ…」の部分なんて歌詞のメロディーへの乗せ方が天才的だ。このサビがとにかくこの曲を切ないながらも前向きなものへと導いている。

また、ベーシストのTAKUが作った曲なだけあってベースラインがとてもいい。いきなり始まるサビはルート弾き。Aメロはギターとユニゾンのフレーズとなる。サウンド面でこの曲が「前向き」な雰囲気を出しているのは間違いなくメロディーとベースラインだ。

歌っている杉本哲太の声もとても曲によく合っている。滑舌の悪い哲太が一つ一つの言葉を丁寧に並べて歌っているのが好感持てる。曲の途中で嵐さんのコーラスが入るのも珍しくていい味を出している。

ここで少し脱線するが、この曲は桃太郎、ミッツ、リーによる紅麗威でカバーされている。このカバーがまた抜群にいい。このカバーを聴くまではこの曲のボーカルは杉本哲太を越えるものはないと思っていた。しかし紅麗威でのバージョンで歌う桃太郎のボーカルも負けてない。そして、何よりこの紅麗威のバージョンは疾走感が増している。オリジナルの紅麗威甦のバージョンではやや控えめな印象のギターが紅麗威のバージョンではかなり前面に出ている。何層にも重ねられたバッキングギターによってバンドサウンドがかなり生っぽくなっていてさらに疾走感のある曲となっていて大好きだ。

紅麗威甦のバージョンと紅麗威のバージョンのどちらが好きかと聞かれたら、紅麗威のバージョンの方に軍配が上がる。もちろん聞き慣れているのは哲太による紅麗威甦のバージョンだが、紅麗威の桃太郎の歌と疾走感のある演奏によってオリジナルをも越える出来栄えとなっている。

ただひとつ間違いないのはどちらのバージョンも素晴らしいということだ。特に最後のサビの繰り返し部分は今聞いても毛穴が広がるような感覚になる。これはもう作曲したTAKUの才能を改めて感じざるを得ない。

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さて、もう一つのGOOD-BYEに話を移そう。紅麗威甦の最後のアルバム「ヨ・ロ・シ・ク四」の最後を飾る「GOOD-BYE Rock'n Roller」。この曲もまた「切なく前向き」な名曲である。「GOOD-BYE LONELY!」は恋人との別れだったが、「GOOD-BYE Rock'n Roller」は分かり合えた友との別れだ。


  Ah-GOOD-BYE Rock'n Roller 今夜
  夜行列車で 別れを告げるお前
  Ah-GOOD-BYE Rock'n Roller 二人の
  熱い友情 忘れはしない

  Come this town いつでも
  Heart to Heart いつまでも

  二人出会った 見慣れた この街
  背中向けて 出ていくお前に
  "GOOD-BYE"

  Ah-GOOD-BYE Rock'n Roller お前と
  俺が愛した女は お前にやるぜ
  Ah-GOOD-BYE Rock'n Roller お前は
  苦笑いして 同じセリフ

 
  Dash Dash Dash 駅まで
  汗が 目にしみる

  着いたホーム あたりは寂しい
  小さく揺れる TAIL-LAMPに 
  "GOOD-BYE"

  着いたホーム あたりは寂しい
  小さく揺れる TAIL-LAMPに
  "GOOD-BYE"

残される男目線で歌われる歌詞で、大切な友達が夜行列車で去っていってしまうという歌だ。何かあったらいつでも戻っておいでとウエルカムな姿勢を示すも、旅立つ友達は躊躇なく未練なく旅立っているように見える。いつだって残された人間が淋しい想いをするものだ。また、見送りに行ったが間に合わずに去っていった列車を見送るところが切なさを増しているし、これが青春なんだと思う。

別れの歌にも関わらず、この曲にはセンチメンタルで悲しい雰囲気はあまりない。これは夢に向かって街を出る旅立ちの歌だからなのかもしれない。そう、この曲にも切なさはあるものの、前向きな要素が強いのだ。

この曲は紅麗威甦脱退が決まっていた哲太に対する桃太郎からの友情の歌だという説をネットで見たことがある。確かに、哲太、俳優の道頑張れよ。しんどくなったらいつでも紅麗威甦に帰ってこいよ。という風に聞こえなくもない。これがもし真実ならとてもいい話だ。この曲の存在意義もさらに上昇するだろう。

しかしだ。しかしこの曲の作詞は桃太郎じゃない。杉本哲太だったのだ。哲太が残るメンバー側の気持ちになって作ったとも考えられるが、それだったらもっとストレートに自分目線の歌詞を書いた方がしっくりくるんじゃないかとも考えている。真実は分からないが、紅麗威甦と哲太がここで違う道を進むことになったことは事実だ。そう思うとやはり切なくもなる。

杉本哲太と紅麗威甦はこの曲でお別れした。そしてそのまま残された3人での紅麗威甦の活動はなかった。当時、紅麗威甦の解散や活動休止の情報は目にしていないオレからすると突然紅麗威甦が「ヨ・ロ・シ・ク四」で活動をやめてしまうことは青天の霹靂であった。結果的には、哲太と紅麗威甦がお別れしたと同時にオレらも紅麗威甦からサヨナラしたわけだ。

結局哲太がどのようなつもりでこの歌詞を書いたかは分からないが、少なくとも歌っている桃太郎は哲太へ向けたセンチメンタルな気持ちを持っていたことだろう。

二度と会うことがないわけではない。またいつか会えることを信じて別れる。友情に終わりはない。離れ離れにはなるが、やはりここにも前向きさも顔を出している。新しい夢を実現するために旅立つ友。その友をずっと応援すると決めている男。これは「切なく前向き」な曲として、やはりオレの琴線に触れることになったわけである。

曲あたまに桃太郎によるセリフが入るのだが、銀蝿一家のラジオ番組「パノラマワイド〜土曜の夜はロックンロール」でのラジオドラマを思い出したりする。そしてラジオドラマよりも数段セリフは上手くこなしている印象がある。「またいつか会えるよな」と優しく語りかけるこの桃太郎が好きだ。

オレが知らないだけかもしれないけれど、突然紅麗威甦はいなくなった。とくに解散や活動休止の宣言もなく。元紅麗威甦のメンバーが新たに作ったバンドBLACK SATANが始動した時に、あれ?紅麗威甦ってもうないの?と思ったものである。その頃は深く考えたことはなかったが、なぜ突然紅麗威甦はいなくなってしまったのだろうか。やはり杉本哲太無しでは考えられなかったということだろうか?それなら尚更、ロックンローラー 杉本哲太として最後のステージとして解散ライブをやるべきだったのでは?と残念な気持ちは残る。もしかしたらオレが知らないだけで実はしっかりと解散ライブをやっていた可能性もなくはないが。

2つのGOOD-BYEについて書いてみたが、本来紅麗威甦には別れの曲は他にもある。それは分かっている。しかし、「切なく前向き」な別れ歌は、「GOOD-BYE LONELY!」「GOOD-BYE Rock'n Roller」、そして「夢・あたためて」がオレにとっては【3大GOOD-BYEソング】なのである。切ない歌詞と前向きになれる演奏とメロディー。この3曲はどれもシングルカットされているわけではない。アルバムの中の1曲だ。紅麗威甦の代表曲かというとそうではないかもしれない。けれどもどれも名曲であることは間違いない。

人生には色々な別れがあるが、そこにポジティブな感情があると人のココロに残るものなのかもしれない。オレの琴線に触れた「切なく前向き」なこの曲達はこの先ずっと色褪せることはない。


it's only Rock'n Roll

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