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YUKIKO と桃子〜ふたりの女性の鉄板ラブソング

紅麗威甦の歌に出てくる印象的な女性が2人いる。こう書いた瞬間誰もが頭に浮かぶのはやはりYUKIKOと桃子の2人だろう。この2人の女性をテーマにした2曲は紅麗威甦の曲の中でもトップクラスの名曲となる。

今日のコラムはこの特定の女性をテーマにした「YUKIKO」と「桃子の唄」について書いてみたい。両曲とも紅麗威甦のセカンドアルバム「ヨ・ロ・シ・ク貳」に収録された名曲である。

正直に言うと個人的にはタイトルや歌詞に固有名詞である女性の名前を入れた曲には若干抵抗がある。なぜなら、その主人公である女性の名前からくる余計なイメージが湧いてしまうからだ。例えばクラスにYUKIKOや桃子が存在したら曲の印象が変わってしまっていただろう。自分の妹の名前がYUKIKOや桃子だったら…と想像するだけでゲンナリする。まぁ、自分にはYUKIKOも桃子も知り合いにはいなかったので問題はなかったのだが。

「YUKIKO」は作詞が嵐さん。どうも嵐さんは女性の名前を歌詞に入れるのが好きなのか、嶋大輔の「男は道化師さ」でも固有名詞を連発している。かずよ、まさえ、さち子、あゆみ、みちる、ゆうこ。さすがに連発しすぎで、誰でも1人は知り合いに同じ名前がいるだろう…

この女性達は嵐さんの付き合った女性の名前なのか?というどうでもいい話は置いておいてまずは「YUKIKO」の歌詞を見てみよう。

  YUKIKO

  お前だけサ 本気なんだぜ YUKIKO
  燃える想い 伝えたいのサ YUKIKO
  何もできない 俺が唄うのは
  お前に贈る 愛の唄だぜ
  お前に贈る 愛の唄だぜ

  2人初めて 出会ったのは夏
  小麦色の肌 白いビキニが
  まぶしいくらい 輝いて俺を
  ずっと悩ます イカシタお前サ

  夏の夕暮れ 気まぐれ通り雨
  そんな恋なんて 酷な話サ 
  あきらめきれない

  お前だけサ マジな気持ちサ YUKIKO
  お前に贈る 愛の唄だぜ

  季節はうつり 山は色づいて
  別れ告げる 秋の風だけど
  俺の気持ちは 変わりはしないのサ
  熱く燃えてる 夏の日のままサ

  いつでも俺の 足元でじゃれつく
  仔猫のような 俺は YUKIKO
  お前が好きサ


見ての通り熱烈な恋愛ソングである。夏に始まった恋が秋に終わりを告げるという短くも熱い一方的でストレートなラブソング。まるで夏の通り雨のような一瞬の出来事を熱く歌ったラブソングだ。この歌詞に桃太郎の激情型のボーカルが実にハマっている。もしかしたら、桃太郎のボーカリストとしての評価が上がったのはこの歌だったのかもしれない。桃太郎のボーカルのおかげでかなりドラマティックな歌になっているように思う。

そして作曲したのはJohnny。いきなり間奏のようなギターフレーズから始まるようなこのイントロからすでに名曲の雰囲気がムンムンに漂っている。そのイントロに続いてサビから始まるこの展開、非常にドラマティックな愛の唄だ。

ドラマティックなサビに続くAメロはやや控えめな展開でタイトなドラムとベースが非常に印象的。ガラッと展開するBメロでは歌メロとハモりのギター、さらにベースが絡む部分が最高である。この部分で諦めきれない熱い恋心がうまく表現されている。実はドラマティックなサビを支えるこのBメロこそがこの曲を名曲として成立させている大事な部分でもあるのだ。よってこのBメロからサビに入ることでサビのメロディーが強烈に頭に残るという作りになっている。

最後はイントロのギター部分に戻り、この劇的な曲は終わるわけだが、このイントロとエンディングのギターはこの曲のドラマティックな印象を決定づけている。本当にこの曲のギターは心に刺さる。そして、サビでのミッツとリーのコーラスも大事なポイントなことも忘れてはいけない。

この曲で紅麗威甦は杉本哲太のワンマンバンドではなく、桃太郎、そしてミッツとリーの存在が非常に大きいことを証明してみせた。この曲は3人での紅麗威のライブでも演奏されCD化もされている。この曲が紅麗威甦にとってはターニングポイントになった名曲のひとつであることは間違いない。そしてこの曲を作ったJohnnyの文句のつけどころのない曲作りの腕前には脱帽するしかない。

では続いて2人目の女性が登場する「桃子の唄」に話を移そう。この桃子とは漫画「ハイティーン・ブギ」の主人公・宮下桃子だ。

この曲は元々は杉本哲太&LONELY-RIDERSの「On the Machine(翔と桃子のロックンロール)」のカップリングとして収録された曲だ。以前のコラムでも書いたが、どういう流れでこの「ハイティーン・ブギ」の企画になったのかは分からない。


元々は企画シングルのB面の曲だったこの「桃子の唄」は、その後紅麗威甦のアルバム「ヨ・ロ・シ・ク貳」に収録され、その後桃太郎のデビューシングルとして再録されている。さらには桃太郎、ミッツ、リーで再結成し紅麗威と改名したバンドでも別バージョンで歌われている。それだけこの「桃子の唄」はファンに愛され続け、またメンバー達にとっても手応えのある大切な曲のだろう。あれから30年以上経った今聴いてもまったく色褪せていない。

  桃子の唄

  Oh, My Little Lady なんだかやけに
  Yes, My Little Lady しびれちまうのさ
  やばい恋に なりそうな予感
  おれにはちょっと すぎたお前さ

  真っ赤なドレスに 
  ポニーテールが揺れて
  真っ赤なワインに
  横浜(ハマ)の夜が揺れて

  細い腰に腕まわして
  思いきり抱きしめれば
  心のアザさえ 消えちまう
  そうさ おれの負けだぜ 
  My Little Lady

  降るよな星空
  とばさないか おれと
  お前の騎士(ナイト)さ
  いのちだってやるぜ

  きゃしゃな肩に口づけして
  不器用な愛の儀式
  めまいがしそうな 切なさは
  本気の恋のせいさ
  My Little Lady

  Oh, My Little Lady なんだかやけに
  Yes, My Little Lady しびれちまうのさ
  やばい恋に なりそうな予感
  そいつもいいさ 気分はRock'n Roll
  そいつもいいさ 気分はRock'n Roll


作詞は大宮めぐみと山川啓介の共作で、おそらく漫画「ハイティーン・ブギ」に関連して作られたものかと思う。流石にプロの作詞家の作品である。いつもの銀蝿一家の歌詞とはひと味違う。逆に言うと、いつもの銀蝿一家らしい歌詞に比べると頭にすっと入ってきづらい歌詞のような気はする。

この曲が名曲である大きな理由はやはりサビの完成度だろう。この曲の作曲はTAKUだ。歌詞が頭に入りづらいと書いたが、サビの歌詞は一度聴いただけで入ってくるし、しっかり残る。それはやはりメロディーの良さが関係している。そのくらい圧倒的にこの曲のサビのメロディーはいい。

この圧倒的にキャッチーなサビがいきなり曲頭から始まるわけだからこの曲のインパクトはかなり大きい。もうこの時点で名曲確定したも同然。

この曲は、紅麗威甦としてリリースした翌年に桃太郎のソロデビューシングルとして再録されているわけだが、曲の構成としては紅麗威甦のバージョンと桃太郎ソロのバージョンも同じだがいくつか違うアレンジ部分がある。

まず紅麗威甦バージョンはイントロがない。ピアノのフレーズからいきなりサビのメロディーから始まる。桃太郎バージョンは短いながらも効果的なイントロがある。紅麗威甦バージョンはサビのコーラスをTAKU(おそらくミッツとリーも歌っている)が歌っているが、桃太郎バージョンではTAKUはコーラスには参加していない。存在感のあるTAKUのコーラスが入っているという意味では断然紅麗威甦バージョンの方がいい。さらに紅麗威甦バージョンでは2番の歌を桃太郎ではなくリーが歌っているところもなにげに面白い。

そして一番大きく違うのはバックの演奏にある。紅麗威甦バージョンはピアノ、サックス、そしてクラリネットのような木管楽器が使われている。間奏もサックスのソロだ。桃太郎バージョンではバックにストリングスが入っていることで少し印象が違って聴こえる。ちょっとだけゆったりとしたイメージだ。テンポはさほど変わりはないかと思うが紅麗威甦バージョンの方がタイトに感じる。

紅麗威甦バージョンと桃太郎バージョンのどちらが好きか?当時もクラスで話題になった。個人的にはどちらとは正直言えない。どちらも曲として完璧なのだ。やはりメロディーが素晴らしい。これはもうTAKU先生のなせる技。そういう意味ではTAKUがコーラスで参加している紅麗威甦バージョンの方がやはり若干ポイントは高いかもしれない。しかし、全編通して桃太郎が歌っている桃太郎バージョンも当然捨てがたい。やはりどちらか選ぶのは難しい。

「桃子の唄」での桃太郎の歌は「YUKIKO」と比べると大事に丁寧に歌っている。「YUKIKO 」は恋した女性を諦めきれない熱い気持ち、強い情熱がこもっていて、「桃子の唄」は、特別な恋が始まった時の甘い気持ちがこもっている。このように歌い方や感情の込め方を曲によって変えることができる桃太郎のボーカルテクニックはなかなかのものだ。哲太のような圧倒的な存在感があるわけではないが、最終的にはソロデビューできるほどだから、やはりボーカリストとして天性のものがあったに違いない。特に「桃子の唄」に関してはもう桃太郎以外のボーカルは考えられない。リーには申し訳ないが…

今日取り上げた名曲2曲のボーカルが桃太郎だったのは偶然だろうか? いや、今日取り上げた2曲は女性へ向けた熱いラブソングだ。同じラブソングでもこの2曲の恋する想いと方向性は違っている。それぞれの曲に合わせた表現ができるのは桃太郎しかいないのだ。そう考えると、この2曲を桃太郎が歌うことはやはり必然だったように思う。ノリのいい曲調で「飛ばすぜ!」的なものは哲太の歌がハマる。リーやミッツもハマる曲はある。けれどこの2曲に関して言えば誰がなんと言おうと桃太郎だ。これは誰も異論はないだろう。

今日このコラムを書きながら、何度も何度も「YUKIKO」と「桃子の唄」をひたすら聴き続けてきた。大袈裟ではなくここ数日はこの2曲ばかりを聴いていたが、本当にこの2曲は飽きることがない。あの頃を思い出すノスタルジックな部分ももちろんある。しかし大人になった今聞いても新鮮で心に響くラブソングなのだ。そして、男がどうしようもないくらい女に惚れた時の感覚はいくつになっても変わらないのだ。要するにこの2人の女性の歌は永遠の鉄板ラブソングなのである。この先YUKIKOと桃子という名前の女性に出会うことがあったら、オレたちは熱く優しく接しなくてはならない。


it's only Rock'n Roll

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