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横浜銀蝿のイメージをさらに広げたチャレンジ曲

初期はツッパリが奏でるご機嫌でシンプルなロックンロールという印象が強かった横浜銀蝿だが、中期にはそれとは違った質感の曲にいくつかチャレンジしている。それは当時中学生だったオレは若干戸惑うほど銀蝿のイメージが覆る曲達だった。

イメチェンをするアーティストは多々あるが、銀蝿のそれはイメチェンではなく幅を広げたという方がしっくりくる。幅を広げることで銀蝿のイメージはさらに大きいものになった。特にその傾向は中期以降に上手い具合に広げてみせている。その傾向の中心的存在は4枚目のアルバム「ぶっちぎりとっぷ」だったのではないだろうか。

「ぶっちぎりとっぷ」はとにかく今までとは違う質感に意欲的にチャレンジしているのが分かる。横浜銀蝿のアルバムを並べてみて、「ぶっちぎりとっぷ」だけが異色に見える人も多くいるかもしれない。これまでの「ぶっちぎり」シリーズでは常に4人のメンバーがジャケットに並んで写っていたが、この「ぶっちぎりとっぷ」ではついにメンバーの姿はなくなっている。銀地に白でロゴがあるだけのもっともシンプルなものだ。まるでビートルズのホワイトアルバムのようで、シルバーアルバムとも言えるだろう。

架空のバンドでジャジーなソロ回しをするという今までではなかったタイプの曲「気分はスーパースター」で始まるこの「ぶっちぎりとっぷ」。今までとは違う質感の曲がちらほらと並ぶまさに意欲作となっていた。

今日はこの「ぶっちぎりとっぷ」から2曲、その次のアルバム「ぶっちぎりV(オーバートップ)」から1曲。この中期から後期にかけて、横浜銀蝿が圧倒的に幅を広げ、デビュー当時の単なる不良・ツッパリのイメージだけでは括れないようになることに大きく貢献した3曲を挙げてみたい。

今日の3曲は、曲を作る時に◯◯のイメージで、という元ネタがおそらくあると考えている。残念ながらその元ネタは分からず気になったままなのだが、とにかく今までの横浜銀蝿ではなかったようなタイプの曲なのである。こういう新しいことにチャレンジする横浜銀蝿の開拓の精神がたまらない。

・渚のサーフロード

単純にいうとベンチャーズのようなタイプのサーフロックだ。Johnnyが作ったこの曲は途中「サーフロード」と声は入るがそれ以外は歌もなく完全なインストゥルメンタルな曲として仕上がっている。まずここまで翔くんの声の気配がない曲はなかなかない。それまででは「盗まれた魔法のランプ」くらいじゃないだろうか。そういった意味でもこれは特異な曲なのである。

終始Johnnyのクリーントーンのギターで進む「渚のサーフロード」。途中Bメロのみオルガンのような鍵盤がメロディーを奏でるが、1曲通してクールなギターが支配するインストナンバー。とにかくクリーン一辺倒なギターサウンドが核となっている曲だ。今までは翔くんの歌声あってこその横浜銀蝿であったわけだから、ここまで翔くんの気配がないのはかなり新鮮であった。

「ぶっちぎりとっぷ」では前半と中盤の間の4曲目の「渚のサーフロード」で一息ついて「うわさのあの娘はマブちゃん#1」「銀ばるRock'n Roll」へと流れ込む曲順は最高にイカしていた。
後に矢吹薫がこの曲をカバーしている。そちらには若干だが歌詞と歌メロが追加されている。

  Lonely girl Lonely boy
  Please listen to the sound of sea
  NAGISA NO SURF ROAD…


・俺のNAGISA

「ぶっちぎりとっぷ」で新たな横浜銀蝿を見せたことで、次のアルバム「ぶっちぎりV(オーバートップ)」ではさらに横浜銀蝿としての音楽性に自由度が増している。翔くんが「このアルバムは隠れた名盤」と胸を張っていたが、とにかくメンバーが自由に伸び伸びやっている印象だ。「ぶっちぎりとっぷ」で新たなイメージを広げた横浜銀蝿は、何をやっても4人がやればそれは横浜銀蝿になるという自信に満ちた作品となっている。その中から今日は「俺のNAGISA」を挙げてみたい。

中学生時代の当時、この曲を聴いた時は「これはシャネルズか?」と思ったものだが、この曲の元ネタはやはり分からない。低音でのコーラスなどを聴いていると、シャネルズも影響を受けているであろうドゥーワップの元ネタ曲がきっとあるのではないかと思っている。

この曲はサビとそれ以外の部分のイメージが大きく変わる。サビ以外の部分がオクターブ低く歌うためサビとはかなりイメージが変わる異色な曲だ。翔くんの低音の声が魅力的でセクシーだ。サビ部分の翔くんとJohnny、TAKUのハーモニーはこれがまたチカラの抜けた素晴らしいものになっている。そして何よりメロディーが秀逸だ。一曲通してどこの部分もメロディーがいい。

この曲のもう一つの特徴は、いろいろな楽器がオーバーダビングされていて、ストレートなロックンロールが特徴の横浜銀蝿にしては凝った作りになっている。パーカッション、ギロやシェイカーのような音も入っている。レコーディング時にメンバーがアレ入れようコレ入れようとスタジオで盛り上がった風景が目に浮かぶ。

まだ夜のNAGISAなんて想像するしかなかったあの頃にこの曲を聴いてとにかくNAGISAに憧れた。「ここは夢がきらめくピカピカの奴だけ 愛を語れる様に星が光る」という部分に当時強烈に惹かれたことを思い出す。


・狂走街道

そして今日挙げる最後の曲は、再び「ぶっちぎりとっぷ」に戻っての「狂走街道」だ。この曲こそがT.C.R.横浜銀蝿R.S.時代の曲ではもっともチャレンジした曲なのではないだろうか。とにかく危ういヤバさみたいな雰囲気を持っているところが格好いい。フェードインするドラムにエンジン音が乗るシンプルなイントロから期待が高まる。

なんといっても翔くんの囁くような声の低音の歌がたまらない。オクターブ低くく歌っているため凄みが増している。先程「俺のNAGISA」で見せたオクターブ低く歌う手法はまずこの「狂走街道」で生まれていたのだった。

この歌を通常のキーで歌ったらどうなるんだろうと想像してみると、全く違った曲のイメージになることは間違いない。もしかしたら、復活した3人での横浜銀蝿辺りの質感の曲になるのかもしれない。

この曲はどうしても翔くんの低音ボーカルに耳がいきがちになるが、実は演奏もたまらない。地を這いながら唸るように鳴るTAKUのベース。もしかしたら途中のハーモニクスはベースでやっているのか? そして最小限に抑えシンプルなカッティングがイカしているJohnnyのギター、そしてちょっと前ノリで曲の疾走感を作っている嵐さんのドラム。どれもこの曲には欠かせないピースとなっている。さらにはかなり大胆にシンセサイザーが導入されているのもこの曲のチャレンジを表している。

この曲の元ネタは全く想像がつかない。この曲こそ決定的な元ネタがあると思うのだが。もし知っている人がいたらぜひ教えていただきたい。

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というわけで、今日は横浜銀蝿としては異色なチャレンジとなった3曲について書いてみた。どれも「ぶっちぎり」でデビューした時には想像もできない地点まで到達しているのだ。きっと本人たちもこのようなサウンドまで行き着くとは想像していなかっただろう。

Johnnyがインタビューで「俺達は芸能史には名前が残っているけど、音楽史には残っていない」と語っていたが、中期以降の横浜銀蝿は明らかに自分たちの音楽的幅を広げるチャレンジをしていたし、音楽的にももっと評価されてもいいのにとは思う。

もちろん、ツッパリの楽しいロックンロールが基本線なのは変わらないが、中期以降に音楽的な幅を広げることにチャレンジしていたこともまた横浜銀蝿が多くの人に支持された理由のひとつなのかもしれない。特に「ぶっちぎりとっぷ」で見せた多くのチャレンジが、「ツッパリだけじゃないぜ」とその後の横浜銀蝿の活動を広げたことになったのではないだろうか。だからこそ次作の「ぶっちぎりV(オーバートップ)」での後期横浜銀蝿の完成形ともいえる進化が生まれたわけだ。

イメージ以上に横浜銀蝿の4人は音楽に真摯に向かい、あの手この手で聞き手を楽しませてくれていた。このチャレンジ曲を聴きながら、そんな横浜銀蝿の音楽性の面白さを改めて感じている。そしてこのコラムを書いているのはいよいよ横浜銀蝿40thのツアーが直前に迫っているタイミングだ。メンバーもファンも1年待ったのだ。声は出せないが、この念願が叶ったみんなの想いを一つに爆発することだろう。待ちわびたぜBaby。


横浜銀蝿は止まらない〜Johnny All Right!
it's only Rock'n Roll

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