音楽の値段、音楽の距離
4月のイースター休暇直後くらいに、コペンハーゲンはTivoli公園の外周を歩いていたところ下の画像のフライヤーが所狭しと張られているのを見つけた。
こういう時、人間の目というのは面白いもので、この一見して読みづらいフライヤーから自分が認知できる単語だけを瞬間的に抽出できるのだ。
私の目に飛び込んできたのは、
「「「DEEP PURPLE」」」
の文字列だった。
2度見、3度見して、空目じゃないことをしかと確かめる。
やっぱりディープパープルだ!!!
叫んだ。
叫んだし、すぐカレンダーに6月9日の予定を入れた。
Wikipediaを開いて現メンバーを確認する。
DeepPurpleのギターといえば皆の憧れ、言わずもがなのリッチーブラックモアだが、彼がもうバンドにいないのは風の噂で知っている。
調べてみたら、まさか自分が洋楽を聞いていた中学~高校時代はおろか、物心つくかつかないかの1993年に脱退していたとは…。
彼をDeepPurpleで拝める世界線は存在しなかったんだな…。
Keyboardの名手ジョンロードは2002年にうっかり他界してる。
それでもDeepPurpleの叫び声ことボーカルのイアンギランは健在だし、ベースのロジャーグローバーも、ドラムのイアンペイスも生き残ってる!!
俄然高まる。
ギター少年だった頃の自分に教えてあげたい。
このライブに行くことで、自分の洋楽アーティストライブ経歴が以下のようになるわけだが、
2004年 ロックオデッセイ:The Who@横浜アリーナ
2004年 ロックオデッセイ:Aero Smith@横浜アリーナ
2006年 A Bigger Bang Tour:The Rolling Stones@東京ドーム
2013年 Sommer Sonic:MUSE@幕張メッセ
2019年 Singapore Grand Prix F1:Red Hot Chili Peppers@Padang
2023年 Friday Rock:Deep Purple@Tivoli
額に入れて飾りたくなるようなレベルのラインナップ…。
これでPaul McCartney行ってないのウケるし、友人に誘われたのになんやかんやつまらない言い訳を自分にして、Eric Claptonのライブに行かなかったのは人生の中でも最も大きい後悔の一つだ。
それはさておき、話はディープパープルに戻る。
このTivoli公園で行われるFriday Rockと呼ばれるコンサート、何が凄いってチケット代がないのだ。
正確に言えば、Tivoli公園に入る入場料(155 DKK≒3,300円)だけでコンサートを聴けるのだ。
Tivoliの年パス(379 DKK≒7,600円)持ってれば当日の入場料は無料!
っていうか、ライブ代だと思って年パス買えばTivoliが無料!?!?(錯乱)
こんな凄いことある??あの、ディープパープルなんだよ??
「この6月9日は金曜だし、コペンハーゲン中、いや、デンマーク中の人が押し寄せて来るんじゃないか!?」
「無料は無料だけど、そもそもTivoliに入れなくて外で音漏れ聞くしかないみたいなことになってしまうんでは!?!?」
といった不安に駆られながら、その日を迎え業務時間を過ごした。
結果的に当日の業務はそれほど早く終わらず、一緒に行く人を待ちがてらいったんBarでビールを飲んで落ち着いたりしていたら、Tivoli公園に着いたのは20時半を少し過ぎようかという頃だった。
「ま…まぁデンマークだしそれ程混まないだろ」と「超満員だったらもう完全に終わった…」が頭の中を行ったり来たりしながら会場に向かったのだが、入り口が見えても、入ってもまだ人だかりが見えない。
会場近くなるとさすがに「おーおー人たくさん来てる!」とは思ったが、それよりも「え?開始1時間ちょい前でこのレベルなの!?」という気持ちの方が強かった。
そもそも会場だって、サッカーコートよりだいぶ小さい。
GoogleMapでざっくり50m×30mくらいに見えるし、さすがに前方には行けないけど、後方は全然余裕でポジション取れちゃうレベル。
通路だって全然平常営業。
日本じゃ考えられないなーと思うとともに、これは人の熱量とかじゃなくてやっぱり圧倒的に東京の人口密度が異常なんじゃないかと思った。
そもそもこのFriday Rock、22時始まりというのも良い。
この6月9日の日没時間が21時51分ということもあり、開始時刻でも全然明るいのだ。
これも北欧の緯度がなせる業か。
そうして、日は沈みDeepPurpleがやってきた。
1曲目から文字通りエンジン全開のHighway Star。
これこれこのイントロ!
このイントロからしか得られない養分が確かにある。
そこから、Pictures of Home、Into the Fire、Lazy、Strange kind of Woman、Space Truckin’、最後には会場全体でSmoke on the Waterの大合唱。
アンコールでは、HushやBlack Nightを演った。
こ…これが無料!?15,000円くらい払ったって惜しくないライブだろこれ。
22時に始まり23時半過ぎまで1時間半以上、計16曲ものライブパフォーマンスを魅せてくれた。
もう死にそうなジジィ達が、だ。
凄かった。
イアンギランいくつだよって。
御年、77歳(1945年生まれ)だって。
一生死なないでくれ!!!
ちなみに、「Rock’n Rollなんて野蛮だわ!」という人のためにSummer Classicというクラシックコンサートも曜日は違うが同会場で行われている。
上記のOpen Airな会場では、Friday Rockに同じで入場料だけでOK。
Tivoli内の室内コンサートホールでやる場合は、別途チケット購入が必要。
さらには、この季節は市内でJazz Festivalだって開催されている。
こうやって日差しを浴びに外へ繰り出し、
朝から晩まで、RockからClassicからJazzまで、
みんなで集まり、わいわいと音楽を嗜む。
まさに、飲めや歌えや踊れやの饗(狂)宴。
なるほどこれが夏の北欧なのかもしれない。
「Rockは不良だ!」
「Classicなんて高尚な!」
「Jazzはよくわからないわ!」
そんな感じで御託を並べたり、自分で敷居を高くしたりしてないで、
音楽はこうしてお日様の下で草の上に寝転んで聴くものなんだよ、ということをお子が少しでも三つ子の魂してくれたらいいな、と思うのだった。
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