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[童話]コッペパンと金貨
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「おじさん、僕は苺ジャムとマーガリンね」
「俺は小倉とマーガリンだよ」
「はいよ」
ボクは半ズボンのポケットに手を入れて、小銭を出し掌の上で数え、ため息をつく。
「そこの僕は何を塗る?」
おじさんに、そう聞かれて、
「ボクはパンだけでいい」
と答えた。
みんなは、それぞれのコッペパンをムシャムシャと食べている。
おじさんは、黙ってボクを見て、
ピーナッツクリームが入った瓶に、ナイフのような物を入れ、クリームをすくい出した。
ボクは何をしているのかと、それを見ていた。
「はいよ、ピーナッツクリーム」
そう言っておじさんは、ボクにコッペパンを差し出した。
「パンだけでいいんだ」
「50円」
「えっ?」
コッペパンだけだと50円だけど、中身に塗ると80円だ。
「パンだけでいいんだ、ボクは」
と、喉を鳴らしながら、もう一度言った。
おじさんは、クリームを塗ったパンを、もう一度ボクに差し出して、
「50円だよ」と、言う。
ボクは、おずおずと50円を渡した。
「まいど」おじさんは、そう言って天井からぶら下がっているザルに小銭を入れた。
「あーうまかった!」
「ホント、うまいなぁ」
みんなは夢中で食べ終わった。
ボクもアッと言う間に完食だ。
すると、山田くんが、
「この後、俺んちに来いよ」と言う。
でも、みんなは習字やらソロバン教室などで、バイバイと行ってしまった。
「慶太は来るよな?」
仕方なく、ボクは山田くんの家に行くことになった。
正直、山田くんのことは、あまり好きではなかった。
山田くんのお父さんは社長さんで、彼の家はお金持ちなのだ。
山田くんはそれを自慢ばかりする。
案の定、前を歩く山田くんは、庭にある池には、何十万円とする鯉がうじゃうじゃ泳いでいるとか、中には100万円以上の鯉もいるとか、そんな話しばかりだった。
立派な門と、立派な松の木。
彼の家に着いた。
山田くんは玄関で靴を脱ぎちらかして、廊下を走って行った。
ボクはぼろぼろの靴を脱ぎ揃えると、山田くんのあとをついて行く。
「いらっしゃい。ケーキがあるから食べてね。もらいものだけど、とっても美味しいから」
白いレースのついた服を着て、長いスカートを履いた山田くんのお母さんが言った。
テーブルに着くなり、山田くんは夢中でケーキをかき込んでいる。
ボクは、ゆっくりと紅茶を飲みながら、ブドウの乗ったケーキを食べた。
「帰りに、お母様と慶一くんの分を持っていってね。用意しておくから」
それを聞いて、ボクはホッとした。
ボクだけがいい思いをするのは気が引けたから。
ボクには、お父さんがいない。
お母さんと弟の慶一と三人で暮らしている。
お母さんは、朝から夜まで働いている。
だけど家は貧乏だった。
山田くんが、体を揺らしながらボクが食べ終わるのを見ている。
「早く食べろよ、見せたい物があるんだからさ」
そう言われても、ボクはゆっくりと食べた。
やっと食べ終わったのを見た山田くんは、「来いよ」と、二階に上がっていった。
ボクは、そのあとをついて行く。
山田くんは、ある部屋にいた。
お父さんの部屋みたいだ。
「山田くん、ここはお父さんの部屋だろう?入っていいの?」
「直ぐに出るから大丈夫。それよりこれを見ろよ」
山田くんが引き出しから出した物は、金貨だった。
「ピカピカ光ってるだろう?外国の偉い人の顔が入ってるんだぜ」
ボクは、なんだか泥棒になったみたいで居心地が良くなかった。
「早く部屋を出た方がいいよ」
そう言ってボクは廊下に出た。
山田くんは、窓のところへ行き、
「太陽の光を当てると、もっと光るんだ」
「ボク、先に下に降りてるから」
階段を降りようとした時、「あー!」と言う山田くんの声が聞こえた。
「どうしたの?」ボクは慌てて部屋に引き返した。
「どうしよう……」
山田くんは、真っ青な顔になっている。
そしてボクを見て、「金貨、落としちゃった」
泣きそうになりながら、そう言ったので、ボクは驚いて、「大変じゃないか、早く探さなきゃ」
焦って部屋から出るボクに山田くんは、
「ダメだよ。だって池の中に落としちゃったから」
ボクは窓の下を覗いた。
そこには、何十万円もする鯉が泳ぐ池があった。
その時、玄関で音が聞こえた。
山田くんのお父さんが帰って来たんだ!
「ど、どうしよう」山田くんが半べそをかいている。
ボクも動揺していた。
階段を上ってくる音がした。
山田くんのお父さんは、部屋にいるボクたちを見て、驚いた表情を見せた。
「だめじゃないか、お父さんの部屋には入ってはいけないと言ってるだろう?」
すると山田くんは、お父さんに駆け寄り、
「友達が、金貨を池に落としちゃった」そう言った。
ボクは何がなんだか分からなかった。
お父さんは、ボクを見た。
そして、笑い出した。
山田くんがポカンとしている。
お父さんは、
「キミが落としたのかな?」と、ボクを見た。
そして「な〜に、大丈夫さ。また買えばいい」
「それより、そろそろ帰った方がいいよ。陽がだいぶ傾いてきた」
ボクは、お辞儀をして階段を降りようとしたが、部屋に引き返して、
「金貨を落として、すみませんでした」
と、もう一度頭を下げた。
山田くんは驚いた顔をしていた。
玄関で靴を履いていると、お母さんが、
ケーキの入った紙袋を渡してくれた。
ボクは家に向かって歩きながら、一間の狭い自分の家を思い浮かべていた。
「今日は50円でピーナッツクリームパンを食べられたし、こうやって山田くんのお母さんにケーキを貰えて、いい日だったなぁ」
そう思いながら、家に向かった。
おしまい
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