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多すぎる休暇と、何もしないスキル

娘が小学校に行き始めてから、デンマークの休暇の多さに改めて面食らっている。

5月に入ると、キリスト教系の休みが続く。年によって変わるのだが、今年の5月はまず4連休があり、その2週間後に3連休。6月末に学校が終わり、8月の第二週までの6週間は夏休みだ。8月半ばに学校が始まるものの、10月には一週間の秋休みがあり、12月はクリスマス前から正月まで、10日間ほど続くクリスマス休暇となる。2月には一週間の冬休みがあり、4月には週末を入れて10日間というイースターの休暇。で、また5月の連休シーズン。

つまり、だいたい一ヶ月おきに、まあまあ長い休みがやってくるので、「また休みかい」という感じなのである。勤続10年で10日間の休みをもらっていた新聞記者時代には、次に長期の休みが取れるのはさらに10年後か…と遠い目をしていたが、もう隔世の感。まさか、休みの多さに悩む日が来るとは。こんなに休んでたら、全然仕事が進まないんですけど!

休暇の間は学校は休みになるが、親は仕事をする必要がある場合は、SFOという、日本で言うところの学童に子どもを預けることもできる。でも、SFOも休暇の間ずっと開いているわけではなかったりするし、来ている子がかなり少なくて、自分の子どもを行かせるのがかわいそうな気にもなる。デンマーク人は、休暇のために仕事をしているような人たちなので、特に小学生くらいまでの子どもを持つ親たちは、なんやかんやと都合をつけて、家族旅行に出かけたりしている。

午後4時台がラッシュアワーという働き方で、どうやってこの経済力を保っているのか、という連載を書いているが、この長期休暇の多さも不思議に思うところ。デンマークでは、法律で決まった年間の有給休暇が5週間で、さらに1週間を加える職場も多く、だいたい年次有給休暇が6週間近くになる。これを、みなさん、きっちりと取る。ちょうど昨日も、イギリス人の友人が「こんなに休んで、いったいどうやって仕事を終わらせるのか、いまだに謎だ」と言っていたが、それでも経済が回る仕組みを作り上げたデンマークという国には感心させられる。

そんな休暇大国で活躍するのが、サマーハウス(別荘)である。別荘というと日本人的にはお金持ちのイメージがあると思うのだが、自分の親のサマーハウスを、親兄弟と一緒に利用している、というパターンも含めて、サマーハウスを使つ人は北欧ではかなり多い印象である。

サマーハウスはたいてい、自然豊かな場所にあって、子どもたちが長い休みを自由にのんびりと過ごす場所としては最適だ。デンマークは物価の高い小国なので、旅行といえばイコール海外旅行になるのだが(デンマークの生活感覚からすると、フランスやスペインなど近隣の国で過ごす方が安い)、それでも、休暇のすべてを海外で過ごしていたらとてもお金がもたない。そこで、家族が長期間、お金を気にせずにのんびり過ごせる場所として、サマーハウスが活躍する。

我が家の場合も、義母が若いころに自分でデザインして建てたというサマーハウスに、しょっちゅう行っている。鳥の自然保護区に近く、庭に珍しい鳥がやってくるので、子どもたちは小さいころから、図鑑を眺めつつ鳴き声を聞きつつ、色んな鳥の名前を覚えた。頻繁に休暇がやって来るので、サマーハウス以外にも、知り合いの牧場で馬の世話をしたりと、子どもたちは自然の中で過ごすことに慣れている。

一方の私は、まあまあな日本の都会で育ち、近所にカフェがないのは大いに困るけど、緑がないのは全然気にならないタイプ。キャンプなどにも全く興味がない非自然派(?)なので、正直言って、サマーハウスに出現する虫のレベルには参っている。義母が作ったサマーハウスは、簡素な作りで年季も入っているので、虫の侵入具合が半端ないのである。

ここで、一般的なデンマーク人なら、自分たちで設計図を作って、全面的なリフォームを敢行するところだろう。大工さんに頼むとやたら高いという事情もあるが、お風呂とか台所とか、それって自分で作れるんや…と驚くようなレベルのものを、逞しく自作している。けど私は、そういう方面にはまったく興味がなく、夫もそれほどDIYに積極的でもない。というわけで、当面は、大量&強力な虫スプレーで対策しつつ、それでも入ってきちゃった虫とは、仕方なく共存する方向で過ごしている。 

さて、そうやって休暇を過ごしながら、私がつくづく実感してきたのが、自分の休み下手さだった。特に、仕事の進捗が思わしくない時なんかに、休みを取るのに、すごく抵抗がある。休暇はすべて家族で過ごしたい、と言うデンマーク人の夫に対して、そんなに休む必要、ある?仕事のクオリティを落とせっていうわけ?という議論はしょっちゅう。私に言わせれば、デンマークの休暇が、あまりにも頻繁すぎるのだ。

いや、私だって、頭ではわかっている。休日というのは、仕事で成果を出した人のご褒美ではないはずなのだ。夫に限らず周囲のデンマーク人たちは、仕事の状況がどうあろうが、休暇はしっかりと休むべしという、健全な人権意識というべきものを身につけている。それに、多くの研究が示しているように、休暇によって日常風景を切り替えることは、クリエイティブに物事を考える上ではプラスに働くことが多い。そうやって頭で理解していても、パソコンも持たずに何もしない時間を過ごしていると、終わっていない仕事が気になってソワソワしてしまうのだ。

この5月の休暇中も、まさにそんな状況に直面した。すでに3日間を家族で過ごした後、夫は、私の仕事の現状を理解しつつ「陽子は家にいて仕事しててもいいよ、僕が子どもを連れて出かけるから」と提案してくれた。

昔の私なら、やったー!と一目散にパソコンに向かうところである。でも私は、結局、夫と子どもと一緒に、海辺の街までドライブに出かけることにした。出かけるか、残って仕事をするか、と考えた時に、頭をよぎったのは、後悔についてのこんな研究だった。

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