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歯の妖精が1万円を持ってきた話

少し前のこと。
「きゃー!」という娘の叫び声で、朝、起こされた。

不意をつかれて、ベッドから飛び起きた。娘が満面の笑顔を浮かべながら、1万円札をぴらぴらさせている。

しばらく事情が飲み込めなくて、ぱちくりしていた。「え!何これ!どうしたの!?」とようやく聞いたら、娘は「歯の妖精が持ってきたんだよ!」と言う。

歯の妖精が...と言われて思い出した。最近娘は、前歯がグラグラしはじめた、と言っていた。子どもの抜けた乳歯を枕元に置いておくと、「トゥース・フェアリー」と呼ばれる歯の妖精がやってきて、歯と引き換えにお金を代わりに置いていく、という話を、デンマークの子どもたちも聞かされている。ペッパピッグ にも、そんなエピソードがあった。

しかし。どこのトゥース・フェアリーが万札を置いていくんかい。

福沢諭吉をピラピラさせながら「トゥース・フェアリーは、私がもうすぐ日本にいくことを知ってたんだね!」と歓喜のダンスをしている娘を横目に、私は夫に「…ちょっと来て?」と平静を装いながら事情聴取してみた。

その前の晩、私は友人と会う約束があって、帰宅したのは子供たちが寝た後だった。ところがちょうどその日の夕方に、娘の前歯が抜けたので、夫は家中で現金を探したらしい。しかし、このキャッシュレス社会のデンマーク、家にクローネが全然ない。それで、引き出しを色々開けていたら、日本円の入った私の財布を見つけたんだそうだ。

で、そこまではわかったけど、一万円札じゃなくても良かったよね?100円玉で良かったよね?

とささやき声で怒ったけど、天然な夫は、よくこういうことをやる。

娘は、私が本気でうろたえているのを見て、どうも母親の知らないところで歯の妖精がお金を持ってきたと、本当の出来事だと思っている模様である。まずい。

恐る恐る、あと何本、乳歯が残っているのか検索してみた。「子供の乳歯は、全部で20本です」となっていた。

後に、娘のクラスメートの母親から「うちの子が、おたくの娘さんは歯の妖精から1万クローナ(約20万円)をもらったって言うんだけど…」と、えもいわれぬ表情で報告された。どうも娘は、歯の妖精事件をみんなに触れてまわっているらしい。やばい。すかさず、事情を説明した。

「うちもキャッシュがなくてね、ずいぶん前の旅行のユーロをあげたりしてるよ」とフォローしてもらったけど、「いや、ほんとにあれは間違いで、一万円なんて大金あげるつもりじゃなくて…」とフォローする日々がしばらく続いたのだった。

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