見出し画像

休息と時間の豊かさについて

先日、近所のカフェで、編み物をしつつおしゃべりをしていた2人の写真(↑)をツイートしたら、たくさんの反応があった。デンマークではよく見る冬の光景なのだが、こんなふうに時間の豊かさを感じることが難しいからかもしれない。

北欧で暮らしていると、この社会がうまくいっている理由の一つが、人を休ませるうまさであるように感じる。午後4時すぎにはたいていの人が家路に着くような働き方をしているので、日常的に、仕事以外の時間を持ちやすいということもある。さらには、長期の休暇をしっかり取らせる仕組みもある。法律で決まった5週間の年次休暇はきっちり取っているし、会社によってはさらに一週間近い休暇を上乗せするので、年次休暇は6週間という人もけっこういる。夏休みについてのよくある会話が「3週間?4週間?」というのは、今年の夏休みは3週間連続で取るか、4週間連続で取るか、という意味なのだ。

時間の豊かさは、物質的な豊かさよりも、その人の幸福度に強く関連している、という研究を初めて知ったのは、このハーバード大の「幸福の授業」だった。ストレスにどう向き合うか、がテーマの講義の中でのことだ。

私が授業を取ったのは2008年だったのだが、その時点で、平均して45%もの大学生が、日々の生活を送れないレベルの不安やストレスを抱えているという統計も紹介されていた。授業を受け持った講師のタル・ベンシャハー氏が、この幸福についての授業(ポジティブ心理学)を開設したのも、学生のメンタルヘルスの問題を何とかしたい、という思いがあったそうだ。

それから10年後の2018年、米イェール大学でも、同じくポジティブ心理学を軸とした「心理学と幸せな人生」という授業が開設され、こちらもイェール大史上最多の生徒を集めたことがメディアでも話題になった。授業を受け持ったローリー・サントス教授によれば、「一週間以内に、ストレスで押しつぶされそうになった」と答える大学生が50%以上に上り、20歳のうつ病の罹患率は2009年の2倍の水準になるなど、若い世代のメンタルヘルスはさらに悪化しているらしい。

そういう背景があったからか、ハーバードの「幸福の授業」でも、多くの時間を割いて学生たちに「休み方」を教えていた。ストレスについてのよくある誤解は、ストレスを問題と捉えて、ストレスフリーな状態を目指そうとすることだが、実はストレスそのものは問題ではない。問題は、ストレスから回復できないことだ、と。

授業では、これを筋トレに例えて説明していた。ウェイトトレーニングをすること(筋肉にストレスを与えること)そのものは問題ではないし、むしろ、体を強くするためには必要なこと。でも、持ち上げられるギリギリのレベルの筋トレを、休みなしに続ければ、故障につながるのは目に見えている。

授業の中で学生たちに伝えたのは、やることが多すぎることの問題と、それをいかに減らすか、そしてうまく休息を取るかについてだった。

ここから先は

2,142字 / 1画像

スタンダードプラン

¥600 / 月
このメンバーシップの詳細

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?