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勝手にチャレンジ1000 0088帰ってきたヨモギハムシ

 うちの庭は、なるべくなにもしない、ほったらかしの、もとい、自然派の庭なので私たちの親や、友達や、私たちが植えた草木の他にいろいろな植物が適当に生きています。雑草の、というとあまりに大雑把なくくりとなりますが、まあ、やはり、雑草の庭、といえましょう。
そして、それぞれにいろいろな生き物が生息したり、繁殖したり、食用としたりしています。また、それらを捕食する小さな生き物もいます。
昔、アルゼンチンアリという、巣穴を作らず、地表で集団を作り、何でも食べてしまう、繁殖力の強いアリが日本に上陸し、我が家の近辺で大繁殖したことがあります。やれ、うちに上がってきて台所まで大行列ができていた、とか、雑草避けのビニールシートをめくったらシートの下に白い卵を抱えてうじゃうじゃいて腰を抜かしたとかいろいろ聞きました。中でも納屋に吊るして置いておいたハブの死骸が、ある日骨だけになっていた、というのにはゾッとしました。アリも怖いけど、なんでそんなものを吊るしておくのか。焼酎につけるつもりだったのだそうです。町内会でも殺虫剤が配布されたり、小学校の小さな農園をPTA で掃除しに行ったりとにかく大変な騒ぎになりました。
そんなときでも、うちの庭に殺蟻剤は置きませんでした。観察してみると、たしかに、うちの庭にも明るい茶色で、在来の蟻よりも小さく
足が細く長く、移動の速度が速くて、植木鉢の下とか、石の下とか巣穴を作ることなく繁殖していくアリがうじゃうじゃいました。いよいようちにも侵入されたな、と思いましたが、よく見かけるようになっても一度もうちのなかにあがってくることはなかったからです。きっと、うちまで入らなくても、家屋を囲む庭のなかに、カエルやトカゲなど小動物の死骸や、昆虫の死骸など、栄養源がたくさんあるからに違いない、と思いました。そして、しばらく時がたつと、黒い小さい蟻や、大きな真っ黒いアリ、ちょっと細身のアリなど、アルゼンチンアリの登場で姿をみなくなっていた先住のアリたちをまた、見かけるようになり、アルゼンチンアリの姿はいつのまにかあまり見なくなったのでした。
 と、アリの話が書きたかったわけではありませんでした。そのように、庭には何かしら生き物がいるわけですが、ある年、ヨモギに小指の爪くらいの小さくて、黒くピカピカした甲虫がいることに気づきました。

はじめて気付きましたが、この甲虫はヨモギ以外でみることはないのです。何やら訳アリの、もしかしたら貴重な虫かも、と、たまたまFacebookでお知り合いになった昆虫博士に写真を送りました。ちょっとドキドキしながら。

ヨモギハムシですね。

別に珍しい虫でも何でもなく、ヨモギについて、ヨモギの葉を食べて生きる、その名もそのままヨモギハムシという虫でした。
恥ずかしい。
ヨモギにしかいない、と言うのも、ヨモギの葉を食べるからなのでした。
我が家に貴重な生き物が生息してるかも、と言う夢は儚く消えましたが、ピカピカした黒いボタンのようなその虫はなかなか可愛らしく、ヨモギにヨモギハムシがいる、何事の不思議ではないけれど、何か、とても良いことのような気がしました。
 そのことを知っていたのに、一昨年、五月を待たずに植木屋さんに庭をざっと手入れしてもらいました。いつもなら、立木の手入れを主にしてもらい、春から初夏に伸びる草はほどほどに放置してもらうか、もっと遅く、梅雨前に駆け込みで手入れをお願いするのに、その年はなぜか、早くお願いしたのでした。いっそスッキリ芝生の庭にしてもいいな、という気持ちもありました。萌出て小さな草むらになりかけていたヨモギやドクダミ、地面を緑にしていた雑草たちはたとえ短くされても散髪みたいなものだからまた伸びてきます。伸びてはくるのだけど、まだ姿をみないヨモギハムシは今、どこにいるのだろう?と言う考えが頭を掠めました。この草むらのどこかに卵とか幼虫としているのではないか?渡り鳥のようにどこかから飛んでくるのでない限り、このヨモギのどこかにいて、それが成長して現れる、ということよね、と、ぼんやり思っているうちに庭はすっかりきれいになってしまいました。
果たして、その年はヨモギハムシをみることはありませんでした。
 去年も、ヨモギが大きく繁っても、あのピカピカしたまるっこい姿をみることはありませんでした。一匹もいない。これが、卵や幼虫ごと刈り取ってしまったということなんだな、と、暗い気持ちになりました。
 あれ、これはなんだろう?
 昨日、少し丈が伸びてきたヨモギのそばに一匹黒い虫がいました。

今年も既に植木屋さんにきてもらったのですが、今回は考えて、所々、雑草の草むらをぽこぽこと残してもらうような形で雑草を刈ってもらったので、ヨモギもかたまりで育っています。
 もしかして、ヨモギハムシ?帰ってきた?
どうやら、一匹、帰ってきたようです。

 ありきたりの、お馴染みの虫もいなくなると心配、見ると安心します。蚊とか、毒のある虫は嫌なんだけど、それでも、やはり、全くいなくなるのは良くないことのような気がします。

なくなってしまったら、それを作り出すことができないものには小さなものでも畏れをもって
、と思うのでした。




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