見出し画像

ケルトに魅せられて

Note登録してみたもの見るだけで放置。何から書いていいのか分からないので、『大阪保険医雑誌』2019年2月号 「ピープル」に掲載されたものを投稿してみます。

☆☆☆

私がケルトに魅せられたきっかけは、2004年にゴスペルグループを脱退し、今後の音楽活動に悩んでいた時、ふと思い立って旅したヨーロッパの西の果ての島、アイルランドでした。緑の絨毯に白い羊達、妖精が現れそうな霧深い森、荒涼とした大地と広い空、古い教会で聴いた美しいケルトの歌、親切でユーモアでちょっとシャイな人々…アイルランドの雄大な自然、人々や音楽が、当時行き詰って自ら縛っていた心の鎖を、ふわっと解き放ってくれました。それから私のケルトを巡る旅が始まりました。

「ケルト」とはヨーロッパの基層文化のひとつ。その語源は紀元前600年頃に古代ギリシア人がアルプス以北の異民族を「ケルトイ」と呼んだことに由来し、ヨーロッパ全土で繁栄しました。その後、ローマ軍やゲルマン民族に追われ、西へ西へと辿り着いたのが、現在のアイルランド、スコットランド、ウェールズ、フランスのブルターニュ、スペインのガリシアなどで、今でもケルト文化が色濃く残っています。

近年はカミーノ・デ・サンティアゴ巡礼やコンサートツアーで、スペインのガリシア地方をよく訪れます。これらのケルトの地には初めて訪れたのに懐かしい、郷愁に似た感情を抱いてしまうのが自分でも不思議です。もし古代のケルトの人達が信じていた世界観-霊魂は不滅で永遠に巡る-が真実なら、私は間違いなく前世はケルト人だったのでしょう。彼らが文字を持たなかった代わりに描き残した、独特のケルトの渦巻き文様は、その「終わりなき生命の繰り返し、再生」を表現しています。

またケルト神話に見られる「常若の国(ティルナノーグ)-海の彼方にある不老不死の楽園」にも心惹かれ、旅では大西洋を臨む断崖絶壁に佇んで、その楽園によく想いを馳せていました。興味深いのはユーラシア大陸の東の果て、日本にも同じような信仰があることです。蘇りの地ともいわれる和歌山県、熊野に伝わる「常世の国」、そして沖縄で信仰されている神々の住む楽園-「ニライカナイ」も遥か海の彼方にあると。そして古代の日本人と同じくケルトの人々は森羅万象に神を見出だし、自然崇拝をしていました。目に見えないものが教えてくれること、自然と人間の共存、これからの時代にとても大切だと思います。

昨年8年ぶりにリリースしたアルバムのタイトル「モルーア」とはアイルランド語で「海の歌い手」「人魚」の意。隔たりも境界もない海の世界で歌う人魚のように、世界の人々や異なる文化をつなぐ、架け橋のひとつになれればという願いを込めて…これからも歌い続けていきたいです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?