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「ママは良い人生なの?」Vol.24

退院前日に、洋服と靴を渡した。その時に「明日の朝、8時半に病棟に来て。」と夫から指示を受ける。早く退院したくてたまらないことがわかる。この時間は看護師の申し送りや朝の巡回など忙しいので、いくら早く行っても待つことになるんだけどなぁと思いつつ、彼が病院内にいることは安全なので黙って頷き明日に備える。

退院の日だ。
朝8時半から待合室で2人並んで座る。高いところに掛けてあるテレビをぼんやり見ていると、事前に病棟に渡しておいた質問用紙をもって男性の看護師がやってきた。「ご質問の件ですけれど・・・」と言って口頭で話し始めた。質問項目は以下の通り。

〇次回受診日の確認
◇退院後の生活のついての質問
 1.食事について→栄養士より
  飲酒について
 2.傷の管理について
 3.入浴について
   入浴方法、入浴時間、温度、その他注意点
 4.仕事について
  ◭ 仕事復帰のタイミング
  ◭ 仕事の強度、日常生活の生活強度と休息の取り方
  入院前は、どのようなペースや、どのような労作の仕事をしていて、次の受診まではもともとの仕事のやり方の何割程度の強度で実施してよいか。
  (例えば、日曜祝日以外の8時から18時、仕事の労作はどの程度か、デス 
クワークか立ったままの時間が長い、力を使うなど。移動手段は歩行が何分ほどで坂や階段がどの程度あるかなど。)
 5.どのような症状があったとき、病院に連絡するか。
  その際の連絡の電話番号と、窓口。
 6.他注意点
 7.次回、外来受診時の医師からの説明の際は、家族以外の立ち合いは可能か

正直に言うと話してもらった内容は物足りなかった。夫のデータを元に話すわけではなく、一般的な話をされた。ケースバイケースであることを前提として、「無理せず動き、調子が悪くなればいつでも病院にお越しください。」がベース。4の仕事復帰のタイミングに関してはかなりしつこく聞いたが「寝たきりでいるのは良くないです。回復のためにも体を動かした方が良いです。」どまりの答え。具体的に彼の今の体調での移動手段の危険性などには的確な答えは示されなかった。

そうか・・・。こんな話になるのであれば(働こうっと!)と夫が思うのも無理はない。彼の思考回路も理解できる。
チラッと横を見ると、「ほらね。働けるって言ってるでしょ。寝たきりじゃない方がいいって言ったでしょ。」と微笑みながらこちらを見ている。でもその顔色が土色なんだけどなぁ。
「病院で入院しながらできる処置はもうありません。後はご自宅で回復を促してください。」ということなのだろうと(私は)理解した。

「栄養指導の方で呼ばれましたので1階に降りてください。」と言われ、ナースステーションにお礼を言って沢山の荷物と共に栄養指導室に行く。
こちらは事前に入院中の献立表が欲しい、などの意思表示をしていたことが『積極的に治療に取り組む患者』と思われていたのか、具体的に様々な食事のとり方を示してくれた。身体によいものを適量摂取することが大切だ、という考え方はわかりやすいので特に問題なし。「お酒はちょっとやめておきましょうか。」と言われ納得。新しい内臓に早く慣れるためにも忠実に守ることが大前提。 食事に関しては、入院中食欲不振になって不安になった経験があるからか、「新しい内臓との付き合い」を積極的に取り入れようとしている。

後は会計を済ませれば自宅に帰れる。残念ながら退院2日後から働きたい、という夫の希望を止めるほどの返答はなかった。

退院日が土曜日だったので「時間外出入口」から退院した。私が3か月間何度も通った通り道だ。「やったー!」と両手を挙げて喜んでいる夫を見てもあまり心から喜べない。
(この人、明後日から働くって言ってるけど、どうしよう・・・)の気持ちの方が大きい。

でも私にはナースさんがいる。今から彼女も交えて今後の生活について、夫の思考を軌道修正するための話し合いの時間が持てる。まだ引き出しは持っている。

しかし多くの場合、このような幸運には恵まれておらず、家族の者は不安な気持ちのまま病気の家族を迎え入れていくのだろう。退院後に何かあったらまた自分が我慢すればいい、と思いながら。

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