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「ママは良い人生なの?」vol.32

コロナ禍の入院とは、入院患者と家族はほとんど顔を合わせることなく接点を持たずに過ごす期間になるということ。よって自宅で待つ家族と医師はほとんど会えない。
私が夫の主治医と会って話をしたのは入院時と手術時、そして退院時の3回だけだ。病棟看護師とも「荷物の受け渡し」で数秒会うだけ。そもそも病棟に長時間居ることができない。コロナが与えた「会えない」という状況が与えた影響は非常に大きい。人と人との対話が少ない環境では、お互いの考えや気持ちの行き違いが出やすい。数少ない情報で全てを理解しようとするので勘違いや憶測で動くことが多くなる。

病院側も試行錯誤しつつ、この流れで3年間対応している。患者とその家族とのコミュニケーションがほとんど無く「説明の機会が無いのは致し方ない。だってコロナだもの」となりがち。(もちろん病院によっては違うと思うけれど、多くの『患者様以外は面会禁止』を挙げている病院は少なからず影響はあると思う)。コロナ禍における3年間の日々の治療や対応の積み重ねがこのスタイルを当たり前と感じるようになってしまった。

「医師はなんて言っているの?」「看護師にもう一回伝えて。」と何度夫に尋ねただろう・・・。ピントの合わない答えが夫から届くとじわじわと猜疑心が湧いてくる。(ここの病院、対応が丁寧じゃないな。)(スタッフ間の連携が取れてないのではないか?)(医師と看護師との関係はいったいどうなっているのだ?)などなど。夫の説明が不足しただけかもしれないのに、病院の対応を私の中で決めつけてしまいがちになっていた。

退院前、医師の説明時に同席した私は、的確な答えが欲しいと力が入り、ついしつこく何度も質問してしまう。機嫌の悪い家族と話す感じ。医者も嫌だっただろう・・・。今はそう思う。
しかし、体調が良くない夫に全ての対応と判断を任せてしまうわけにもいかず、退院までの医師とのやり取りは私にとっては苦痛だった。

その状況もナースさんが現れて改善した。退院後の通院は夫とナースさんで行くことが増えた。私は仕事に穴をあけずに済み、結果を2人から聞くことができた。

質問内容はナースさんや夫と事前に打ち合わせしておくので問題ない。むしろ返事の内容に期待が高くなりがちな私が尋ねるよりも、ナースさんの方が冷静に聞いてもらえる。そして専門的な質問も可能なので結果として手に入れる情報量が多い。私に伝える時は内容もわかりやすく翻訳されたような状態で届く。本当にありがたかった。

検査結果を聞き、夫は退院後も治療の継続が必要だとわかった。あんなに大きな手術をしたけれど簡単に病は去ってはくれない。少し期待していたが致し方ない。家で落ち着いて聞いた私はかなり冷静だったが、目の前の医師から告げられた夫は落ち込んでいたであろう。
その状態で医師は「今すぐこの治療方法に取り組むのが良いと思います。」とすぐに治療について説明が始まったらしい。あまりに早い展開にナースさんも違和感を感じたようだ。困ったような顔の夫の後ろから「次回の診察まで新しい治療に取り組むかどうかのお返事を待ってもらえますか?」と尋ねてくれた。
「もちろんです。よく考えてください。」治療方法について考える猶予期間を得た。夫はその時のことを「あぁ言えばよかったのか。言われた瞬間『応えないと』と思っちゃうんだよなぁ。」と話していた。

ナースさんの質問から得られた「猶予期間」。これは治療方法の選択だけでなく、夫が今後どう生きたいかを考えるための大切な期間になった。

「最初に診てもらった内科医の意見も聞きたい」夫から提案があった。

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