キツネの屋島の合戦 その2(全2回)

ポン!昨日の続きじゃぞ。

キツネは、お医者さまに言ったんじゃ。
「だんな殿、今日はちと人が足りませんので、船の櫓(ふねのろ)をかいてはもらえませぬか。」
「櫓を漕ぐくらなら、お安い御用だ。」
お医者さまはな、そう言うと、櫓を持って手を休めずにな、キツネの芝居を見物したんじゃと。いよいよ屋島の合戦が始まったんじゃよ。海の上にはなぁ、平氏の船が、ゆんらゆんら。あっちへ行ったりこっちへ来たりしおっての。源氏軍はな、屋島の海っきわからなぁ、弓をひょうひょう射っておるんじゃよ。
「あの立派な兜(かぶと)の紋が義経かいのぉ、那須与一はどこじゃろなぁ」
お医者さまはな、楽しゅう芝居を見ておったんじゃよ。

さて、お医者の家ではな、どんな待っても主人が帰ってこないもんだからの、村の人たちを頼んで見つけに行ってもらったんじゃと。夜が明けるころ、ようようとな、山の近くで見つかったんじゃよ。
「お医者どの、ここで何をしておるんですかいのぉ」
「ワシは今、こうやって船を漕ぎながらな、屋島の合戦の芝居を見せてもらってるのじゃよ」
「お医者どの、何をバカなことを言うておりますかいのぉ。目を覚ませてくだされ。柄杓(ひしゃく)で肥溜め(こえだめ)を掻き混ぜておるんですぞ。」
と村人たちは言ってな、ピーンとな、お医者の顔を叩いて目を覚まさせてやったんじゃと。肥溜めっちゅうのはな。ウンチとおしっこを沢山溜めておく池のことを言うんじゃ。昔はな、このウンチとおしっこを長く置いておくとな、畑の肥料になったんじゃよ。野菜たちの栄養になったんじゃ。本当のことじゃよ。

キツネはな、お医者だの、お坊さんだの、庄屋さまだの、だますのが好きなんじゃなぁ。
デンと昔話じゃて。デンデン。

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