西行(さいぎょう)の戻り橋 その2(全3回)


ポンと昔々。平安時代も終わりの頃のこと。和歌を詠む西行(さいぎょう)というお坊さんが武蔵野の国、埼玉県の寄居(よりい)の末野(すえの)というところまでやってきたんだ。秩父の方へまで和歌修行に行くとかで、ここまで来た。この末野(すえの)にはね、逆川(さかさがわ)っていう川がある。川の水はまん丸の円良田(つぶらた)の山から流れてきて、ここを通って荒川へと、とうとうと流れていくんだ。西行のお坊さんがね、ここの川に架けてあった土橋(どばし)のところまで来た時にことだよ。背負子(しょいこ)を背負った子供が鎌をふりふり、こっちへやってくる。西行は、
「小僧さん、どこへ行く?」
と声を掛けてみた。
「冬ぼきの 夏枯れ草を 刈りに行く」
と五七五で答えたんだって。でね、子供はさっさかと行ってしまった。
「はて、冬ぼきの夏枯れ草とはいったい何のことであろうか。」
西行はね、下の句の七七を考えようと思ったのだけれど、意味が分からなかったんだ。それは、麦のことだったんだけれどもね。西行はね、あんな小さな子供が歌を作っているのかと思うとこれから先の歌修行にどんな難しい歌を言われるか分かったものじゃない、と思ってね、先に行くことを諦めて、この橋を渡らずに、もと来た道を戻っていくことにしたんだって。そんな訳でね、この橋を{西行戻り橋}(さいぎょうもどりばし)と呼んでいるんだ。西行はね、道を戻って行くと、今度はこの橋のたもとにあったあばら家で百姓の娘が絹を織っているのを見つけたんだ。その娘の美しさに見とれていると、娘の織るその絹が急に欲しくなってしまった。

今日はここまで。
読んでくれて、ありがとう。
明日は、最終回だよ。ポン!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?