義経と鵯越(ひよどりごえ)(その4 全4回)
半歩半歩と息を殺し、張り詰めた緊張の中、義経達は三郎の声についてゆく。約束の卯の刻6時は刻々と迫っている。あせってはならぬ。また踏み込んだ石がガラガラと落ちていった。岩をだましだまし一列に進んでいく。なんとしてもこの鵯越を突破せねばならない。生田の森からの範頼軍とこの鵯越の義経軍との挟み撃ちでなければ平家をやっつけられないんだ。何時間歩き続けているんだろう。
「海が見えまする」
やっと、やっとゴールがそこにあるんだ。白くはきだした息と朝霧が消えていく。三郎の声が遠くから聞こえてくる。ほの明るくなってきた向こうにはビョウビョウと海がひろがっている。一騎一騎とがけっぷちの上へと到着していく。
足元絶壁の下を見れば遠くかがり火がいくつも見える。この下には平家たちが眠っているんだ。
「みな無事で渡れたな」
「おお、あれが平氏どもか」
「とうとうきたか」
「よし、一息入れたらこの崖をかけ下るぞ。みな、恐れるな、鹿はこのがけを軽々といくという。鹿にできて馬にできぬことはあるまいぞ。しかも、坂東の荒野で鍛えた馬だ」
そう義経は言ったんだよ。
「さあ、まずはその馬2頭をこのがけから追い落としてみよ」
引き出された2頭の馬は怖がって足をすくめていたんだけれど、ピシリと鞭をあてられると崖の下へとかけ下っていったんだ。
「おお、1頭は立ち上がっている。さあ、二つに一つだ、恐れるな、後に続けよ」
義経はビョウっと風の音を残して先頭を切って崖下へとかけ下っていった。こうして馬に乗って次々と崖をかけ下っていったんだ。
最後まで読んでくれてありがとう、ポン!
#日本史 #平安時代 #源義経
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