歌人 平忠度(たいらのただのり)と右腕(その2 全3回)

忠澄は大声で呼びかけたよ。それは、色白く、ひげをたっぷりとたくわえ、白月毛の馬にまたがって、赤地錦の直垂ひたたれに黒糸おどしよろいをつけて、かぶとをかぶりもしないでいる。名のある大将に違いなかったんだ。
「私は、お前の味方ぞ」
忠度は落ち着いて答えたんだ。そうさ。嘘を答えたんだよ。その時チラリと口元が見えてしまった。忠度は歯を黒く染めていたんだ。源氏には歯を黒く染めている者なんてなかったからね。平家の者に間違いなかったんだ。
「やあやあ、これぞ平氏なり!いざ見参けんざん!」
忠澄は喜んでちかかっていったんだ。忠度を守ろうとする平家の家来たち。忠澄を助けてりかかっていく忠澄の家来たち。入り乱れてのり合いさ。気がつけば、忠度と忠澄との一騎打ちになっていた。
「いやえ、いやえ!」
忠度が一撃一撃と忠澄に太刀を振り下ろしていく。忠澄の鎧は固くごつりごつりと跳ね返してくる。忠澄も負けてはいない。刀を振りかざして斬りつけていく。命をかけての勝負だ。忠度がもう一撃と腕を上げた時だった。忠澄の家来が横から忠度の右腕をズバリと斬り落とした。忠澄の斬り離された右腕と刀は遠くへと飛んでいった。忠度の右腕からは血しぶきが飛び散っていく。忠度は忠澄に倒されて組み引かれていた。
「勝負はあった。そのほうにこの首をつかわすゆえ、のけ!」
「なにとぞ、名乗られよ」
忠澄が退いて名を聞いたよ。
「生きていてこそ名も位もあろう。さような物はみな忘れた。即首を打て。最後の十念じゅうねんを唱える。南無阿弥陀仏・・・」
 
今日はここまで、読んでくれてありがとう!忠度、誇り高いね!お休み、ポン!
 
#日本史 #平安時代 #平忠度

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