梵天丸(ぼんてんまる)の右目 その1(全2回)


ポンと昔。伊達輝宗(だててるむね)の子、梵天丸(ぼんてんまる)の右目の続きのお話だよ。

ポンポン。
次の日、梵天丸の部屋に、小十郎(こじゅうろう)と藤五郎(とうごろう)と武術の仲間たちがやってきました。
「何をしに来たのだ。」
梵天丸はビックリして皆を見回しました。皆侍(さむらい)が死ぬときに着る白い服を着ているではありませんか。
「ワシを殺しに来たのか?」
「いいえ、若様のお命ではありませぬ。若様をお苦しめになっているその右目をいただきにまいりました。その右目さえなければ、迷い心などおきませぬ。若さま。お覚悟を。右目頂戴(ちょうだい)いたしまする。」
10歳の梵天丸はしばらく考えていました。
「分かった。右目を切り取ってもらおう。この梵天丸、逃げはせぬ。頼むぞ、小十郎」
と言うと、静かに仰向け(あおむけ)になりました。
「よくぞ申されました、梵天丸さま」
白い着物を着た家来たちが、ぐるりと梵天丸の周りに集まりました。あまりの痛さで動いてしまったら、皆で押さえつけようと思っていたからなのです。小十郎が小刀の鞘(さや)をはらいました。
「いざ、まいりますぞ。御免(ごめん)!」
小十郎は飛び出た右目と、その肉の塊(かたまり)をえぐり取りました。
「ううっ!」
梵天丸は葉をくいしばり、両こぶしを震わせ、その鋭い痛みに気を失いかけていました。この騒ぎを聞きつけて、他の家来たちや、お父さまの輝宗(てるむね)も梵天丸のもとへ駆けつけてきました。
「誰がこのようなことをしたのじゃ」
と輝宗が叫びました。
「はい、私が若様の目を切り取りました。主君に刃(やいば)を向けた罪、腹を切ってここで償い(つるない)まする」
小十郎はその場に座りなおすと、白い着物の前をはだけ、血の付いた小刀を持ち直しました。昔はこうしてナイフで自分のお腹を切って、死んでお詫びをしたものなのです。すると、梵天丸が呻く(うめく)ような声で言いました。

今日はここまで、ポン!

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