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悪源太義平(あくげんたよしひら)の最後の一矢(その6 全6回)

ロクロウはゆったりと首を差し伸べた。役人が刀を引き抜いた。南無阿弥陀仏の念仏と溜息とが大きくなったよ。ドドドド―竹矢来の外の人たちが左右に散って道ができた。
「おお、あれは、あれは、悪源太じゃぁ!」
角にもえる松明たいまつしばりつけられた牛が10頭ばかりこっちへ走って来たんだ。
「悪源太じゃぁ!」
「悪源太が来たんじゃ!」
群衆が叫んだ。火をつけた牛の群れは竹矢来を押し倒して刑場へ突進してきた。
「牛を止めよぉ!牛を射れぇ!」
仰天した経遠がわめいたよ。暴れ狂う牛たちと逃げ回る人々。大混乱さ。
矢がいくすじも飛んでゆく。牛はたちまち全身に矢を突き立てられて、巨大なハリネズミのようになって暴れ狂ったよ。
その時だよ。馬にまたがった一人の武士が姿を現わしたんだ。悪源太義平さ。
「ロクロウ、鎌倉源太義平ここにあるぞ。おぬしを救えぬわしを許してくれ。せめて敵にかかる前に、わが一矢を受けて成仏せよ。ロクロウよぉ!」
義平は馬上でろうろうとさけんだ。ろくろうを狙って弓をきりきりと引き絞る。
「ありがたき、若殿!」
ロクロウは叫ぶと矢じりの方へと胸を開いた。義平の射た一矢はロクロウの胸を深々と貫いていった。
「許せよ、ロクロウ、成仏するのだ、さらばじゃ」
義平はあっという間にけ去ってその姿はもう、どこにもなかったんだ。

最後まで読んでくれてありがとう、ポン!

#日本史 #平安時代 #源義平

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