あの世の話 その2(全2回)


「角さんよ、お前さんはまだここへ来るには、ちと早すぎるぞ。まだ40歳じゃからの。早よ今来た道を引き返して帰れや帰れや」
とこう言ってくれたんだ。そりゃまた、ここへ戻ってこれると聞いて、ありがたかったけど、庄さんが、なんでまた閻魔大王さんになられたんだか、それが不思議でな、何でか聞いてみたんだ。庄さんはなぁ、にんにん笑いながら教えてくれたよ。
「角さんよ、わしが初めてここに来た時、前の閻魔大王は、ワシに向かって、その方生きている時にはさぞかし悪いことを沢山したであろう」
と言うじゃないか。
「いいえ、とんでもございません。私は悪いことなどはしませんでした。」
と答えたんだよ。
「そりゃまことか」
と閻魔さまが言うんでな、
「はい、何で閻魔大王さまに嘘なんぞつきましょうか。私は生まれつき歌が上手で始終(しじゅう)面白い歌を歌っては村の人たちを喜ばしてきました。良いことはいくつしたか知れませんけど、悪いことなんぞや一度もしてません。」
と言ったんだ。
「さようか、それではお前の上手なその歌とはどんな歌か、ひとつワシに聞かせてみせい。」
そう言われたんでなぁ、ワシは声も大きく一生懸命歌ったんだ。もう二度と歌うこともないだろうと思ってなぁ。そうしたら閻魔大王さまがうっとりお聞きなされる。夢中になって聞いてくださったんだがな、いくら経っても「続けよ」というばかりでな、ワシはくたびれてしまってな、ちょいと休みたくなったその時にな。うっとりしている閻魔さまをちょいとつついてみたんだ。そうしたらなぁ、閻魔さまが地獄へとふいっと落っこちていってしまったんだよ。地獄ってのは奈落の底(ならくのそこ)と言うじゃろ、一度落ちたら上がっては来れないところじゃからな。そんな訳で閻魔さまの椅子が空いたんでワシがこうして閻魔さんの代わりで座っているという訳じゃよ。」
とこう言うじゃないか。でなぁ、続けてこんなことを言ったんだ。
「やぁやぁ、ところで角さんよ、角さんが生きているもんの国へ帰ったらな、岩村のもんに伝えてくれんかの。岩村の庄(しょう)が閻魔さんやっているから、岩村のもんは皆天国の極楽浄土へ行かしてやると言っていたとな。安心して4丁目まで来いやと言っておいてくれまいか。」
とな。角さんはこうしてあの世の話を皆にしたのでした。角さんはそれからは元気で81歳まで長生きされたとのことです。きっと閻魔様にまた会って、極楽浄土(ごくらくじょうど)へと行かせてもらっていることでしょう。

お話を最後まで聞いてくれてありがとう。ポン!

じゃぁお休み。

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