混浴の酸ヶ湯温泉(すかゆおんせん) その1(全2回)



ポンと昔々、大昔のことです。

青森県の横内村(よこうちむら)というところに佐ヱ門四郎(さえもんしろう)という働き者の若者が住んでいました。佐ヱ門は、春から秋には田んぼでお米を作り、畑で野菜を作っていました。雪が降るようになると、山へ行って狩りをして暮らしていました。佐ヱ門は仕留めた(しとめた)鹿やウサギのお肉を食べたり、そのお肉や毛皮を綺麗にして、村へ売りに行ったりしていたのです。

ある冬の日のことです。佐ヱ門はいつものように弓と矢を持って八甲田山(はっこうださん)に積る深い雪を踏み分けて、奥へ奥へと獲物を探しに行っていました。いつもなら、何匹かの獲物が取れるのですが、その日はどうした訳か一匹も見つけることができませんでした。ですから、もっと奥へ奥へと歩いていったのです。前岳を登り田茂萢岳(たもやちだけ)あたりに差し掛かった時のことです。谷間に一頭の鹿の姿が見えるではありませんか。「よし」佐ヱ門は息を殺して、かじかんだ指でズイーっと弓を引きました。キョーと飛んだ矢は鹿の足に突き刺さりました。鹿はドウと雪の上に倒れました。佐ヱ門が急いで走って鹿の方へと近づきました。ところが鹿は立ち上がり、足を引きずりながら逃げていってしまったのです。もう少しだったのにな、とがっかりして、その日は家に帰ったのです。

次の日も大きな鹿を逃がしたことが悔しくて、また昨日の場所まで行ってみました。すると、そこには、点々々(てんてんてん)と赤い血の跡がついているではありませんか。佐ヱ門はその血の跡をたどって、山を越え谷を越えて奥へと入っていきました。すると、もうもうと湯気の立ち込めている所がありました。近づいて行った時です。

今日はここまで、続きはまた明日。ポン!

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