山内一豊の武勇伝 その2(全3回)


4月27日の朝早く、お城の中から、ゴーンゴーンと鐘の音が響き渡ると、朝倉軍はぞくぞくとお城を出て細い坂道を一列になって静かに登っていったのです。

その朝倉軍のしんがりの大将というのは朝倉でもきっての豪傑と言われた三段崎勘右衛門(みたざきかんえもん)という弓の名手でした。体は他の者より二回りも大きく背中には弓を背負って、黒の鎧を着けて真っ黒な馬を連れていました。
「おお、あれが弓の名手、三段崎勘右衛門か」
坂の下から見上げた一豊は
「あの者を打ち取れば、手柄になるだろうに」
と思っていた時でした。
ダーンダーン味方の織田軍から鉄砲の音がしました。ダーンダーン朝倉軍からも打ってきました。突然に戦いになってしまったのです。ダダーン、坂の上の朝倉軍から鉄砲が撃ち込まれ、味方達が一豊の目の前でバラバラと倒れていきます。こちらから坂を駆け上がり、朝倉軍に体当たりしていく者たち、体に矢が刺さったまま転げ落ちてくる者たち、男たちのうめき声叫び声、誰かを呼ぶ声、その中一豊も何人か倒し、息をついた時です。ふと兜の眉庇しを上げて坂の上を見た時、血が凍るほどに驚きました。坂の上に敵将の三段崎勘右衛門が、馬をそばの松につなぎ、自分は赤土の地面に座り込んで弓を満月のように引き絞っているではありませんか。坂の上に鬼が一匹うずくまっているようです。矢には、鑿(のみ)ほどの大きさの矢じりが付いていて、その先は二股に分かれていてちょうど歯が三日月のようになっているのです。サルの首落としと言われる大矢じりだったのです。

一豊は目の前が真っ暗になりました。一豊は夢中でした。真っ暗なまま二間半もある長槍を持ち直して、勘右衛門目指して坂をダッシュしました。ピョー、勘右衛門が矢を放った時と、一豊が得体のしれない悲鳴を上げて転がっていた時は同時でした。
矢じりが一豊の兜の眉庇にガチッとあたり、残る片方の歯はザクリと一豊の左目の下の肉を裂きさらに、口の中に喰い込んで右の奥歯に突き刺さったのです。顔に矢が生えたようになったのです。

さあ、今日はここまで。また明日。

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