浄瑠璃淵(じょうるりぶち)の由来 (その3 全3回)
「奥州とはな、遠い遠い北の果てじゃ。誰も行けやせぬ。忘れるがよかろう」
父親の言葉に何も言わなかった浄瑠璃姫さ。
ある秋の夜の事さ。浄瑠璃姫はね、義経から渡されたウスズミの笛を胸に、お屋敷をひとり抜け出して奥州へと向かって行ったのさ。月は明るかったけれど、歩いた事のない道さ。石につまずいたり、着物の袖を草木に引っかけて破いてしまったり急な坂道をはう様にして登ったりとしていったのさ。奥州へ奥州へとつぶやきながら歩いていたんだよ。ひどく疲れてしまったよ。浄瑠璃姫はね、お水を飲みたいと思ったんだね。ふと足を止めると目の前に乙川の流れがあったんだ。月明かりが乙川を白く照らしていたんだよ。川の向こう側は深い暗闇だったよ。
『浄瑠璃姫よ、来てくれたのか』
ふとね、すぐそばであの義経様の声が聞こえたんだ。乙川の中ほどに義経様を見たんだよ。浄瑠璃姫はねウスズミの笛を胸に抱きながら乙川の中へと一歩ずつ歩いて行ったんだよ。乙川の流れはね、ちっとも冷たくはなかったって。そうさ、義経様の胸の中のように温かく感じていたんだ。浄瑠璃姫とウスズミの笛はね、義経様を探して川底深くへと行ったって。
岡崎市明大寺町成就院の裏の辺りだったよ。この浄瑠璃姫が川に入って行った所を浄瑠璃淵と呼ぶようになったんだって。今はね、葦のしげる砂の洲になっているってね。
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