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11体毛:逆立てたり、よだったり

 哺乳類はケモノ(毛物)といわれるように、体表に体毛を持つものが多い。この体毛は爬虫類の鱗、鳥類の羽毛と相同であり、爪1)と同じように皮膚2)の角質化によって生じている。

 体毛の乾燥重量の90%以上はケラチンというタンパク質で、爪と同じである。通常の状態で約10%の水を含んでいる。ケラチンは硫黄を含むアミノ酸のシステイン同士のジスルフィド結合によって互いに結びついている。この結合は非常に強固で、ほとんど傷の無い毛が古代エジプトの墓で発見されている。

 体毛は一般に体温の保持と体表面の保護の役割を担うものと考えられる。哺乳類は恒温動物であり、体温を保つことが重要である。そのため、寒冷な環境では長い毛を密に持つものが多い。反対に、放熱効率を高めるなどの目的で体毛が薄くなるよう進化した種も少なくない。その場合、露わな皮膚が防御上弱点となることもある。ヒトも体毛が薄いが、興味深い説があり、後述する。

ライチョウ

 季節が明確な地域では気温の差に対応して、毛の生え方が変わる。夏は夏毛であり、冬は冬毛という。冬毛の方が細かい毛が密生し、体温保持に貢献する。この2つの毛は色も大きく変化する例がある。オコジョやエチゴウサギでは冬は真っ白になる。これは雪の多い地方での保護色として働く。哺乳類だけでなく、鳥類のライチョウにも同じことが起きる。ヴィ-ガン(ピュア・ベジタリアン)には毛嫌いされる毛皮の用途には冬毛が喜ばれるのは上記の理由による。

 なお、人種により体毛の色は異なる。アフリカ系や東洋系は黒色だが、欧米系はこれ以外にブロンドなどがある。年齢が高くなると、白髪が増える。大きなショックにより一晩で白髪になったという話があるが、眉唾である。

 

頭髪など

ヒト体表面の保護の為に生えるという説があり、頭髪、眉毛、まつげはそれに該当するだろう。これらとは異なり、青年期への移行期にかけて生え始める体毛(腋毛や陰毛など)は役割が異なるのは当然である。それはヒトのフェロモン物質の保持という考え方があり、周囲のアポクリン腺から分泌されている。脇毛などが縮れているのはフェロモン物質の保持に寄与するためと考えられる。

 

性毛

現在、体毛には男性ホルモンの影響を受ける男性毛(腕、膝など)がある。また、男女関係なく性ホルモンの影響を受ける両性毛(脇毛と陰毛)もあり、この2種をまとめて性毛という。男性の性毛であるひげや胸毛の役割はよくわからない。さらに、3種目の無性毛が加わる。ホルモンについて一例を挙げると、男性ホルモンの代表格であるテストステロンは、髪の毛を始めとした体毛の発育に関わることが知られている。

 ヒトの体毛が薄いことについての仮説に触れておこう。薄い体毛に加え、ヒトは直立二足歩行をし、皮下脂肪が厚く、涙を流す。水に入れば、必然的に直立二足歩行になるのは誰でも理解できる。また、厚い皮下脂肪はクジラなどの水棲哺乳類の特徴である。ウミガメは餌を通じて体内に入った塩分を濾し出すための塩類腺を持っているが、ヒトの涙腺につながるというのである。以上がエレイン・モーガン氏の「人は海辺で進化した」3)という書籍の内容である。面白いと思うが、科学者からの支持は少ないようだ。

 最後に体毛に関する慣用句と熟語を挙げておく。
*慣用句
命は鴻毛より軽し          馬は外で毛を振る
兎の毛で突いたほど         髪の毛を逆立てる
九牛の一毛             結構毛だらけ猫灰だらけ
毛のない猿             毛を吹いて疵を求む
毛を見て馬を相す          猿は人閻に毛が三本足らぬ
下腹に毛がない           尻毛を抜く
旋毛を曲げる            範皇毛を伸ばす
眉毛を読まれる           身の毛がよだつ
目は謳毛を見るも睦を見ず
*熟語
吹毛求疵     毛骨悚然     亀毛兎角     泰山鴻毛
1)    皮膚&肌 https://note.com/yokko752/n/na1ccfed9ba1b
2)    爪 https://note.com/yokko752/n/n0451b8eb8bab
3)    エレイン・モーガン「人は海辺で進化した」(1998)
*食品なんでも相談所 横山技術士事務所
*3頁目 発酵食品もの知り講座
*4頁目 大豆総合研究所
*中国ひとり歩記録 目次 中国ひとり歩記
*吉祥寺サバイバル 目次 吉祥寺サバイバル
*働くヒト器官 目次 働くヒト器官

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