吉祥寺サバイバル Ⅲ 定常期(stationary phase)Ⅲ-6 東海地区T男 20XY年7月
東海地区にある大きな都市にT男は妻と娘と一緒に住んでいた。勤務先は楽器を作る会社で、T男はピアノやギター、フルート、ドラムなどなんでも上手に演奏することができた。L村病が流行りだしたので、家族で食べ物と水の調達を行った。
やがて、妻と娘は発熱し、T男の看病の甲斐なくあっけなく亡くなってしまった。庭に穴を掘って、二人を埋葬し、手を合わせた。自分の命も長くないことを覚悟していたので、隣に穴だけを掘っておいた。
それでも、T男は具合が悪くならないのである。そうであれば、生きていかなくてはならない。大きな都市の為、保存可能な食品の調達は容易だった。車で少し移動すると、農家が存在する。野菜畑ではトマトやキュウリ、ナス、ピーマンなどをたくさん入手できた。また、鶏の飼育場があったので、扉を開けて自由にしてやった。やがて、卵をそこここに産むようになった。遠浅の海が広がっている。砂浜では潮干狩りで貝類を捕ることができた。また、ボートを出して、投網を打つことを覚えた。
この地域では自然エネルギーに力を入れていた。海沿いには多くのソーラーパネルが設置されており、山沿いには風車発電機が稼働していた。それらの効果と考えられるが、停電することがないのである。衣食住に関する唯一の課題は水の入手である。川から灯油缶で運んでいるが、風呂に入るためには百数十リットルを必要とするのである。
水以外では不自由がない。そうであれば、楽しいことに時間を割くことができる。現在、行っているのが、「ひとりビートルズ」である。駅近くのスタジオを使っている。ひとつのパートを演奏したのを録音する。次回はこれに別のパートを追加録音するのである。このほど、デビュー曲の「ラヴ・ミー・ドゥ」を録音し終えた。家族の写真を前にして、改めて聞いたがなかなかの出来栄えである。今後すべての曲を録音するつもりである。
自宅で楽しんでいるのが囲碁である。パソコンのソフトであるが、現在4目置いて黒石で打っている。7目から始めているので、かなり上達したことは確かである。置き石なしにするのが当面の目標である。
また、迷い込んできた小猫を飼っている。グレーの短い毛並みで耳がやや大きい。しつけができており、トイレはすぐに理解した。ペットフードでは乾物より缶詰を好む。前者の扱いが容易なので、交互に与えるようにしている。DVDも楽しんでいるが、悲しい内容で静かにしていると「どうしたの」というように膝に乗ってくる。かわいいものである。
＊食品なんでも相談所 横山技術士事務所
＊3頁目 発酵食品もの知り講座
＊4頁目 大豆総合研究所
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