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【短歌】知らない人にならないで

*第4回笹井宏之賞最終候補作


花婿にこんにちはって言いにいく ありがとうって言われて困る
身長が伸びればいいねと言っちゃってごめんねわたし鶴になりたくて
階段が斜めになっていてみんな祈りのようにご飯を食べた
成人の女性に必要なカロリー何千だかをとれば寝ていい
するするとほどける服を着てしまい来ないねクール宅急便が
常夜灯 ハガキ職人のことばを借りればみんな童貞になる
税金を払いたくない春雷のやさしいひとは信じられない
WOWOWのアニメみじかい集中をしないと曲げられないよスプーン
春の雨まっすぐ降ってプリーツのスカート流行る金色のやつ
正しくは点がひとつ多いんですでも別になくてもいいんです
いろいろな蛇口があってかんたんに殴れるものを買う暮の春
うすまっていくジュース飲むすこしだけ熱があるから鳩とばないで
傍点に意味をもたせすぎてないか 軽作業ってつかれる作業
でまかせを言わない身体がほしくって水のお風呂に入りつづける
よくしようよくしようって水中にラムネを投げてよくしないでよ
暗礁に乗りあげている クラゲくる クラゲのような助け舟くる
January February March これから耳の検査をはじめ April
これからの杏仁豆腐どうでしょうすべてわたしに任せてみるのは
謎かけをもちかけられて言えなくてそのこころはってだから謎だけ
ベーグルにやさしくしたい噛みちぎるときに狩猟の気持ちがよぎる
たのしみな苺を煮潰してしまってテレビデオならあなたに会える
自転車がぶつかって事故 肉団子甘酢をこぼさないように噛む
ヒヤシンス水をかえるのを忘れて夕刊が来る二軒分来る
二階にはだれも住ませていなくってときどき踊るような足音
春の海すっかり白くなった腕 にくんでいない ひとりひとりは
セーブするリロードをするきみたちはずいぶん雑な数でできてる
ゼリー目を開けて食べるよゼリーゼリーさくらんぼの種やっかいだよね
あますぎるキャンディ痺れやすい腕なおるまで待つあいだもあまい
だれひとり車を持っていないから春の霰のドライブできず
気にしないで、気にしないでって言ってから気にされなくてかなしむんじゃない
イベントの後のけだるさたこ焼きのために切られたぶつぎりの蛸
いまさらのような雪解ここにしかないイオンだと信じればそう
全身が光りはじめる前に逃げてみんなは光るものがすきだから
具を挟みすぎたサンドウィッチに名前をつけて売ってすごいね
歴代の総理大臣が言えたらスーパーファミコンつよくなりますか
炊飯器投げられて痛かったこと 中にお米が入ってたこと
グラスビールは春のものって言い切れる 人混みをちゃんともどってこれる
擦れているガードレールたまに息が荒くなるのはわたしだけかな
きみたちのダンスダンスレボリューションは見てられない しかしわたしもできはしなくて
パラシュートおりてこないでこっちにはやってこないで くる 笑うなよ
てきとうに配られた菓子おいしくてくやしいもうひとつ食べたい
剥くようにバームクーヘン食べるひとばかり集まっていてはいけない
優勝はあなたでしたと過去形で言われて過去もよろこんでます
労働に向いていなくて店頭のサンプル持って山のぼりする
あおむけでねむっていたらうつぶせの封筒が来てお金を払う
せーので渋滞の列を抜け出そう生命線のみじかいからだで
みんなが生きているのと同じサイエンスフィクションの世をわたしも生きてる
花束をありがとう 振り回したら雲がなくなると思ったんだ
シャンパンのグラスに水を入れていてほんのすこしの泡のつぶつぶ
だからあなたなんだよ鉛筆の芯を手のひらに残したままの

ものを書くために使います。がんばって書くためにからあげを食べたりするのにも使うかもしれません。