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怪談【ノック】

ある秋の日の事です。
あなたはいつもの様に疲れて帰って来ました。
誰も居ない部屋でゆっくり休んでいると、玄関の方から「コンコンコンコン」と、ノックの音が聞こえたのです。
何も気にせず、いつものように
「はーい」
といって玄関まで行き、ドアノブに手を掛けた所で、「何か」がおかしい気がしました。
まず、何故この部屋にはインターホンが着いてるのに鳴らさないのか。
さらに、何故ドアの向こうにいるこいつは、名乗ったりもせず、一言も発さずにノックをしてくるのか。
なにより、さっきから
(このドアを開けてはいけない!)
と本能が訴え掛けてくるのです。
あなたは念のため
「どちら様ですか?」
と震え声で聞くと、ただ「コンコンコンコン」とだけ帰って来ました。
少し怖くなりましたが、同時に怖い物見たさが出てしまい、ドアののぞき穴をチラッと覗いてみました。
すると、目に飛び込んできた光景はいつものアパートの廊下でもなく、かといって恐ろしい怪物が居るわけでもなく、ただ、吸い込まれるような真っ黒の闇でした。
「これあかんやつや!」
と思ってダッシュで玄関から離れ、パニクって窓から逃げようとして窓を開けた瞬間、ゾワッという感覚と共に全身に鳥肌が立ち、えもいわれぬ不快感が襲いました。
「『何か』が部屋の中に入ってきた!」
そう、瞬時に悟りました。
流石に怖くなったのですが、窓からも、玄関からも逃げられず、もうどうしようもなくなったあなたはトイレに逃げ込みました。
トイレの中で震えていると、トイレのドアも「コンコン」とノックされました。
(早くどっか行け!)
そんな気持ちでいっぱいになっていると、突然ノックの音は止み、シーンと静まりかえりました。
少し不審に思いトイレ内を見渡してみると、鏡の真ん中に「ぽつん」と黒い点があるのです。
「汚れか?」等と思っていると、その点は液体の様にジワーっと広がっていき、あっというまに鏡は真っ黒になりました。
それと同時に、鏡の向こうからまた「ノック」が聞こえてきます。
「……ン……コン…コン…コン…コン…コンコンコンコンコンコンコンコンコン」段々早く、大きくなってくるノックの音に怖くなり遂にはその場でうずくまって頭を抱えてしまいました。
すると、突然音は止み、しーーーんと静まりかえりました。
すると、最後に「コンコンコン」と優しくノックされたのは、鼓膜でした。

あとがき

この怪談は私がスランプになっている最中に、唯一上手く書けた怪談です。
当時仲良くしてくださってた方に「どんなことが怖いか」と質問し、答えてくださった要素を詰め込んだ作品です。
個人的には、この『ノック』は私が書いた怪談の中で一番と言っていいほど怖いと思っています。
以上、あとがきでした。

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