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北朝鮮外交官の亡命ラッシュ その原因を知ったら驚いた

世界各地から脱北


北朝鮮の外交官の亡命ラッシュが起きている。明るみに出ているだけでキューバ、フランス、中国、アフリカ各国で、北朝鮮の外交官が帰国を嫌って、韓国やアメリカに亡命申請するケースが続出しているという。

その中でも最も注目を浴びているのはリ・イルギュ氏(52)だ。キューバの北朝鮮大使館のナンバー3、参事官として勤務していたが、昨年11月に妻子と共に亡命し、現在は韓国で暮らしている。



リ氏は韓国の有力紙、朝鮮日報のインタビューを受け、初めて公の場に登場した。貧しい外交官生活、北朝鮮内部の腐敗体質、さらには近くで見た金正恩(キム・ジョンウン)総書記の健康状態も証言した。その後、YTN、文化日報などさまざまな媒体に出ずっぱりだ。発言を分析したいのだが、いきなりたくさん発言したので、整理が追いついていない。

キューバの北朝鮮大使館参事官


本人によると、1972年に平壌で生まれ、1999年に外務省に入った。通算9年ほどキューバで外交官として勤務した。2013年にキューバで違法な武器を積みパナマ運河を通過しようとした北朝鮮の船が拿捕された際、リ元参事官が各方面に手を回し、解決につなげた。この功績で金正恩の表彰状を受けている。最高指導者から表彰状を受け取った人物は将来を約束されたと言えるが、なぜその将来を捨て、祖国も捨てたのか。

背広を着た浮浪児


自分の国を代表して外務省で働こうという人は、権力者家庭の出身者が多い。リ参事官は、ごく普通の家庭の出身で、スタートから差があったという。海外勤務というと聞こえはいいが、給料は月500ドルほど。他の国の外交官の10分の1から20分の1に過ぎず、生活ぶりは「背広を着た浮浪児レベル」(リ参事官)だったという。
仕方なく外交特権を使った不法ドル稼ぎをせざるを得ない。キューバの場合、葉巻やタバコの密輸だ。愛煙家の多い中国に送れば、莫大な利益が得られたという。そこに目をつけた本国の上司がワイロを要求。のらりくらりとかわしていたが、自分の業務評価を下げて報復してきたという。
さらに、自分が一時病気にかかったこと、本国の両親が相次いで亡くなったことなども加わり、「亡命する時期が来た」と決断したそうだ。半年間準備して実行した脱北劇についても語っているが、これは他の人と変わらないので省く。

朴槿恵大統領に刺激、フェミニストに


一方、彼でしか分からないことも語っている。正恩氏とお茶を飲んだことがあり、間近で彼を見た経験だ。「向かい合って座って見てみると、ただの普通の人間だ。近くで見ると血圧がものすごく高いと思った。いつも赤く、酒を飲んだような顔だった」。

ジュエには拒否感


後継者として登場し、大きな関心を集めている正恩氏の娘、ジュエについては「初めて見た時は不思議だった。しかし、公式の国家イベントに軒並み登場するようになって、だんだん拒否感が強まった。自分だけではなく、自分の子供たちも、あの幼い子ども(ジュエ)に屈服して生きなければならないと思うと気が詰まった」と話した。自分の子どもを北朝鮮の理不尽な監視と統制の世界に入れたくないということだろう。
私が最も興味深く聞いたのは、正恩氏が2012年に韓国大統領選挙で朴槿恵(パク・クンヘ)大統領が当選した時のエピソードだ。正恩氏は当選のニュースに「すごく衝撃を受けた」(李元参事官)。国際社会に正常な国として受け入れられるためにも、女性を登用しようと考えたようだという。
正恩氏の女性重視は、在日コリアン出身の母親の影響ではないかとも言われていたが、朴槿恵大統領誕生も影響していた。

通訳者を叱責


リ氏の証言の中には、2018.2019年に行われた米朝首脳会談の舞台裏につても言及している。
当時、金正恩総書記の通訳をしていた若い女性が、通訳が下手で、自分が話し終わらないのに、通訳してさえぎったため怒りまくり、彼女を地方に左遷したという。


統一放棄で絶望広がる?


現在韓国には約3万人の脱北者が生活している。近年は、北朝鮮で優遇されているはずのエリート層からの脱北者が増加している。
韓国政府は、今年初め、昨年韓国入りした脱北者が、前の年の3倍にあたる196人だったと発表した。エリート層にあたる脱北者の数は、2017年以降で最多となる10人前後だった。外交官や海外駐在員などを指していて、コロナで制限されていた本国との往来が緩和され、帰国が始まる中で、これを負担に感じた人たちが脱北に踏み切っている。
コロナの影響で、北朝鮮の外交官は、思いがけず長時間現地で暮らすことになった。現地の学校に通う子どもたちが正恩政権に対する悪評を聞き、本国に戻るのをためらうようになったという。

韓国の対北朝鮮政策の変化


さらに、受け入れ先の韓国でも、脱北者に冷たかった前政権と違い尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権は、全ての脱北者の受け入れを表明し、北朝鮮とは対決姿勢を取っているため、安心して脱北できる状況になったことも大きい。
逆に正恩氏は今年1月、韓国を「第1の敵国」に定めるべきだと述べている。この言葉に従って、国内で統一に関連するものが廃棄され、関連機関は廃止されている。
北朝鮮では、経済的に発展した韓国と統一が実現すれば、生活が向上すると期待している。それだけに、正恩氏の統一放棄宣言は、北朝鮮の人たちに絶望感を与えている。リ元参事官も「北朝鮮の人たちは、何よりも南北統一を渇望している」と話していることからも分かる。

家族から出てこない脱北者


残念なのは、キムファミリーからの脱北者がいないことだ。正恩氏の父の時代には、韓国に亡命後に暗殺された李韓永(イ・ハンヨン)氏ら、内部事情に精通した人が韓国に亡命し、ファミリー内部の葛藤や矛盾を赤裸々に告白した。

結局李氏は、派手なメディア露出がたたったのか暗殺されてしまうが、今のところ、金ファミリーに近い人が、最近韓国に亡命したという情報はない。正恩氏は、自分の身内には十分気を使っているのかもしれない。

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