神童は大人になってどうなったのか 小林哲夫 太田出版
読んでいて、これは駄目だと思った。
わたしは神童なんて呼ばれたことはないし、周辺にそんな子供もいなかった。
しかし世の中にはいる。
特に、著名な私立中高校である灘、開成、国立の筑波大学付属駒場。こういう学校のトップクラスで、東大理3に入るような子供たちは、数は少ないが、真の神童だ。
本書によれば、彼ら彼女らはこんな特徴があるという。
国語 文章を読むのがとても早い。生徒は「ぺージを開いたら一瞬にしてすベて読めた」という。何度も読み直さないとわからない難解な論文をすらすら読んでしまう。作文を書かかせると、論理にまったく破綻がない文章を組み立てる。
数学 試験のとき幾何の証明問題で1問につき3通りぐらいの回答書く。「どれが合っているか一番美しい解き方かを選んでみろ」と教師を試すように。ほかの生徒は1問解くのに汲々としていたのに。
政治経済 日本国憲法すベて、刑法、民法の主だった条文を喑誦していた。10代で司法試験をめざしていたようだ。判事をしている。
天才の域に達している。この中にいたのが評論家の内田樹だ。彼は日比谷高校から東大に進んだ。
小中学校の成績が抜群だったという。勉強しなくても授業を聞いたり、教科書を読んだりすれば、頭にす一つと入ったようだ。教科書は見ただけでたいていは覚えられるという写真的記憶術があったとふり返る。
こんな人たちと受験で競っても勝てっこない。
神童が大人になって普通の子供になったというストーリーは、われわれ並才をホッとさせるが、実は神童は、ほとんどがそのまま東大にはいるのだ。
ただ筆者の小林氏は、神童を「頭がいい」だけではなく「いかに社会貢献したか」という角度で、評価し直している。
内田や、立花隆については、「難解な思想を平易に伝えた」として、高く評価している。
中には、日本社会の発展においてブレーキ役となった人もいた。その1人が田中耕太郎だ。東大がかつて学業優秀者に贈った「銀時計」をもらった1人だ。最高裁判所長官期間は3889日(約10年6力月)で歴代1位となっている。
田中は国家権力を守る役回りに徹し、砂川事件という日本の米軍基地の違法性をめぐる裁判の見通しを、米国側に漏らすという失態を演じた。マイナスの社会貢献をした典型だ。
東大名誉教授で、保守の論客である平川祐弘は、天皇の退位を批判し、多くの批判を浴びた。
平川は、第2次大戦中に、英才教育のため東京高等師範学校附属中学校に設けられた特別科学組に入学した、選りすぐりの神童だった。
神童の力をどう世の中に生かすのか。ややもすれば、優生思想に結びつきかねないテーマだが,実は、天才があつまる東大理3からノーベル賞受賞者は1人も出ていない。
筆者の小林さんは、こう期待を込めている。
わくわくさせるような神童に出会ったとき、彼らの将来に期待したい。突然変異でもいい、再生産でも構わない。神童の芽をつぶさず、神童にはわたしたちの未来がかかっているのだから。大切に育ててほしい。
私は、大人になった神童がつくりあげるような社会には、住みたくない気がする。
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