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朝ロ「新同盟」はどこまで発展するのか

 6月に北朝鮮とロシアが結んだ「包括的戦略的パートナーシップ条約」は、両国間の関係強化を目的とした重要な文書となり、大きな波紋と混乱を呼び起こした。

特に韓国では、ちょうど北朝鮮との関係が複雑化している中だったので、反発が広がった・

公開された新条約で、もっとも重要な部分は4条の記述だ。

 全ての手段で援助

 この条項には、「一方が武力侵攻を受けた場合に遅滞なく保有する全ての手段で軍事や他の援助を提供する」と明記されていた。これは旧ソ連と北朝鮮が有事の「自動介入」を規定し、ソ連崩壊後に失効した「ソ朝友好協力相互援助条約」(1961年)とほぼ同様の内容だ。

 「朝鮮半島で戦争が起きれば、ロシアが介入してくる可能性がある」との見方が広がったのも当然だろう。

思惑の一致


 なぜ今こんな踏み込んだ条約を結んだのか。ウクライナ戦争で武器不足に悩むロシアは、北朝鮮から武器や物資の支援を受けている。さらに東アジア地域での影響力を拡大し、米国との対抗姿勢をアピールする狙いもある。

 慢性的な経済問題に直面している北朝鮮も、ロシアからの支援や投資を通じて経済状況を改善したい。特に、軍事技術やエネルギー供給やインフラ整備の支援は、北朝鮮が国を挙げて進める国防強化路線に欠かせない。

 ロシアとの「新同盟関係」を通じ、米国や韓国に対して抑止力を高められる、つまり攻撃されなくなると考えているに違いない。

自動介入には否定的見方が大勢


 4条だけを読めば、自動的な軍事介入があると誤解してしまいそうだ。ただ、過去の条約に比べると、微妙な違いもある。
新条約は有事の介入について「国連憲章第51条と共和国(北朝鮮)、ロシアの法に準じて」と、加えられている。国連憲章51条は、集団的自衛権行使の要件を定めているものだ。4条には「軍事や他の援助」とあり、例えば食料やエネルギー援助でもいい。4条の前の第3条には「危機時に朝ロが協議する」という項目も新たに設けられた。
つまり、軍事介入に至らないためのたくさんの前提条件や抜け道が用意されているのだ。

61年条約との違いも


 61年の条約が「無条件介入」を約束していたのとは事情がかなり違う。このため「新条約を必要以上に神経質になる必要はない」と指摘する専門家も少なくない。私も同意見だ。米国を牽制するうえで、ロシアと北朝鮮はお互いを都合よく利用しているだけだろう。

歴史の中で揺れ動いた朝ロ関係


 北朝鮮は旧ソ連とは密接な同盟関係にあった。旧ソ連は北朝鮮の初代指導者である金日成を支持した。旧ソ連の支援は経済、軍事の両面にわたり、北朝鮮のインフラ整備や軍備増強に大きく貢献した。
 1950~53年までの朝鮮戦争で、ソ連は直接参戦しなかった。その代わり当時最新鋭の戦車を提供、秘密里に空軍部隊も派遣した。ソ連崩壊後、関係は冷え込んだが、プーチン政権下で再び強化され、2018年には正恩氏がロシアを訪問している。
 戦略的パートナーシップ関係は、正式な同盟に続く強い関係を意味する。東西冷戦時代の「軍事同盟」の事実上の復活と言ってもいいだろう。
 ただ、両首脳は「同盟」を、外部向けにお互いに都合よく解釈している。こういうことは国際関係ではよくあることだ。

新同盟を都合よく解説


 たとえば正恩氏は19日、平壌でのプーチン氏との共同記者発表の席で、同盟という単語に計3度も言及していた。一方でプーチン氏は、同盟という単語はついに口にしなかった。その後もロシア側の政権幹部からは、パートナーシップ条約に対する国際社会の反発を鎮めようとする発言が相次いでいる。

パートナーシップどう発展?

 今回締結された条約の分析より、今後朝ロ間で何が起きるかを見守った方がいいかもしれない。パートナーシップ条約には、幅広い協力が盛り込まれている。軍事関係では、さすがに核技術は提供しないだろう。北朝鮮はすでに核保有しているとされるが、さらなる小型化などに成功すれば、既存の核保有国の有利な立場が揺らぎ、核の非拡散を求める国際条約にも違反する。
 ロシアが、衛星打ち上げ技術を提供することは十分ある。これは大陸間弾道ミサイル(ICBM)の技術と同じで、北朝鮮は何回も失敗している。
 原子力潜水艦の建造にも注目しなければならないだろう。こういった先端軍事装備ロシアの協力がなければ、生産できない。
 今は同盟の下の段階だとはいえ、こういった幅広い親密な関係が発展していけば、軍事同盟関係に発展する可能性もあるだろう。

南北対立激化は避けられず


 韓国政府は、北朝鮮とロシアの協力が地域の緊張を高める可能性があるとして、強い懸念を示している。大統領室の張虎鎮(チャン・ホジン)国家安保室長は韓国KBSの番組に出演し、「ロシアが今後どのように応じるのかによって、兵器支援の組み合わせは変わる」と述べた。

 ロシアが、北朝鮮に先端兵器を提供する場合、韓国政府もウクライナに殺傷兵器を含め、制限なしに様々な兵器を支援することがありうると警告する内容だ。南北関係、さらには韓国とロシア関係の悪化が予想される。

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