君たちが知っておくべきこと :―未来のエリートとの対話― 佐藤優

エリート候補高校生の深い悩み
この本は入学試験の難易度は全国ナンバー1で、大学並みの授業を行っていることで有名な灘高校の生徒と、古今東西の古典に通じた佐藤優の対話録だ。

灘校の生徒たちが希望し、佐藤氏が受け入れたことから実現した。

その経緯がおもしろい。佐藤氏は普通なら「執筆に専念したい」と断るところだが、自分が高校時代に通っていた予備校に灘から東大を出た数学の先生がいた。その人が佐藤氏の知的好奇心を満たしてくれたから、そのお礼なのだそうだ。

前書きにあるこのエピソードの方が、本文よりおもしろいほどだ。

本文はやや気が重くなる。早熟の天才たちは、数多くの古典や佐藤氏の著作を読み込んでいて、驚かされるからだ。

例えば佐藤氏がこう聞くシーンがある。


うん。たとえば民族問題について勉強しようと思ったら、ベーシックな本として誰の本を読む?
生徒 アントニー・スミス、アーネスト・ゲルナー、ベネディクト・アンダーソン・・・


こうスラスラ答える高校生って、どんなヤツなんだろう。

しかし、この本の価値は、彼らの早熟ぶりを知ることではない。むしろ、灘校生のような人たちが、受験で勝ち抜いて東大に入った後、どうやって社会に自分の影響力を与えることができるか悩む人が多いという事実だ。

生徒がこんな質問をしている。


僕らの中でも将来の職業選択に迷っている人がいます。そこで、官僚も政治家も検察も裁判官も間近で見てきた佐藤さんに、日本という国家組織の中でどういうところが今悪いのか、日本を良くしたいと思うならどこに行けば日本を変えていけるのかをお聞きしたいと思います。官僚には雑務が多いイメージがあるんですけど、実際に北方領土交渉などで高度な政治決定に関われるようになるには、何が必要なのかということにも興味があります。


答えは本文を読んでもらうことにするが、日本の教育って、自分がどうやって生きるか、どんな仕事に就くかという視点をなにも与えていない。だからエリートたちほど、大学でどうしていいか分からなくなる。勉強の勝者で終わってしまうのではないか。

優秀な学者や官僚にはなれても、影響力を持って社会を変えるインフルエンサーになれない。灘を出たから、開成を出たから日本のフレームワークを変える力を持つわけではない。

日本のエリート教育の足りない点も垣間見えた気がした。

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